親歴20年、上司歴10年、部下140人。乳がんを経た私が、コロナ危機に必要だと思う「力」

北風祐子さん(写真=小田駿一)


「ネガティブ・ケイパビリティ」正解のない人生を生き抜く力


「そもそも脳には分かりたいという性質があり、意味付けして理解し、分かったつもりになろうとする傾向がある」という記事が4月12日の朝日新聞に出ていた。作家で精神科医の帚木蓬生(ははきぎほうせい)さんは、「(分かりたいという欲求の)言いなりにならないのが、知性。分からないという状況に耐え、悩むことは本来、価値がある知的な能力なので、恥じることではないんです」と言う。

結論を急がず、悩みに耐える力のことを、19世紀の詩人キーツは「ネガティブ・ケイパビリティ」と提唱したそうだ。「生半可な知識や意味付けを用いて、未解決な問題に拙速に帳尻を合わせない。中ぶらりんの状態を持ちこたえる力は、正解のない人生を生き抜く力だ」と帚木さんは言う。SNSの普及で、真偽を見極めずに早急な結論に飛びついたり、過激な意見に走ったりすることが増えたことに警鐘を鳴らしている。

思い返せば私も小さい頃から、似たようなことを父に言われて育った。わかったつもりになっていると、必ず諭された。「いいか、わからないことは恥ずかしいことではない。わかったふりをするのが恥ずかしいことなんだよ」と教え込まれた。そのおかげでどんなくだらないことでもきいたり、話したりしてきたが、わからないから質問しているのに、答えを与えてくれることは、ほとんどなかった。算数の問題ですら正解を教えてくれず、じゃあいっしょに解いてみようと、答えが出るまでこちらがずっとつきあわされた。

質問をしっかりとできる子に育てる。その質問に丁寧に応える。“正解”を与えるのではなく、話をよく聴いてあげて、いっしょに考えてみるので十分。その繰り返し。これが、何が大事かを選択する訓練となる。大事なことを見極めて選択することが短時間でできるようになると、ほかのことにエネルギーを回せる。

もし選択を間違えたら、即座に軌道修正すればいい。変なプライドに邪魔されず、素直に間違いを認めて、方針を変える。これも、先に親が実践してみせてあげないと、子どもは安心して失敗できない。

部下が140人に。時間がない中での働き方


このリモートワークのさなかに辞令が出て、部下が一気に140人になった。社内でこのポジションには女性が片手で数えられるくらいしかいないので、「女性の働き方」について聞かれることもある。が、子どもが生まれてからは、男女の違いよりも、「時間がない中での働き方」について工夫を重ねてきた20年だった。いくら世の中が“働き方改革”されたとしても、仕事と家事と育児が重なると、どうしても時間が足りない。男女問わず。

数年前は、仕事のミッションが難題すぎる上に、上司のサポートはなく、中学生の部活朝練前の朝食と弁当作りで毎朝4時半起きだった。あの頃が一番きつかった。あきらかに一人ではこなせない量の仕事と家事だった。

部下は10名ほどだったが、全員の仕事先に同行できるわけもないので、紙に「初動のコツ」なるものを書いて、それを全員に渡し、がんばれ!と送り出していた。みんな、その紙を持ち歩いたり、机の前に貼ってくれたりしていた。時間があれば、もっと質を上げられるのに、どれも中途半端でじれったかった。かといって、無茶なミッションを投げつけるだけの上司を見返してやりたくて、利益を出すこともあきらめたくなかった。
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文=北風 祐子

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乳がんという「転機」

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