コロナ禍でもテレワークできない旧メディア。5G活用で今こそ大変革を

連載「#読む5G」サムネイルデザイン=高田尚弥


だが昨年のラグビーW杯日本開催時、NTTドコモと読売新聞は、味の素スタジアムでカメラマンが撮影した報道写真を5G通信で送信する実証実験を行った。報道用の高解像度 / 大容量画像が、東京・汐留に設置されたモニターに百花繚乱のごとく多数表示されたもの。

これまでスポーツの報道現場では、撮影済みの画像を本社に送信しようと試みるとあまりの容量の大きさにWi-Fiが詰まってしまい、いらだちを抑えきれないカメラマンの怒号がプレスセンターに響き渡ることもあった。こうしたストレスは5Gで解消されると証明された。

一見、派手なソリューションには見えない。だが、インターネットの流布と同様、実際の変革とはこうして静かに進行するものだ。

Jリーグは過去の膨大な映像、画像、そしてスタッツ情報などを包括したデータベース「アセットハブ」構想を打ち出した。NTTの通信網を活かし、すべての資産を集約、必要に応じ、テレビ、デジタルなどメディアおよび観戦者に提供する。こうしたソリューションの活用がJリーグに可能でメディアでは不能ということがありえようか。過去の膨大な記事、画像、さらに映像も5G通信よりAIに喰わせ、メディアへと転用し、資産価値の活用方法を模索すべきだ。

いずれは印刷と流通網の削減も可能だろう。5G対応のプリンターが生まれた暁には、新聞紙面やダブロイドというフォーマットを放棄するもよし。新聞社もデジタル・メディアを主力とし、紙資料として必要なら家庭でA4サイズの新聞を印刷するよう意識変革を起こせばけっこうだ。日経新聞のように購読料をデジタル版と統合していればビジネスモデルの変更も必要ない。

若い世代の「印刷不要論」。一方、デジタル記事の難点も


ニューヨークタイムズ紙面 #読む5G
ニューヨーク・タイムズ2000年1月1日特集号の紙面。文字による記録は「歴史」となる。

若い世代は「印刷は不要」と唱えるだろう。しかし「有史」と記されるように、文字による記録が残されてこそ、歴史となる。

私自身、これまでもMSNニュース、毎日インタラクティブ、さらにヤフーニュースなどへと執筆を続けてきた。ざっと振り返り数百本にのぼるこれらの記事は残念なことに、現在1本も閲覧できない。部署の統廃合、サービスのリニューアル、サーバーの入れ替え、契約切れ…理由は様々だが、デジタル記事は簡単に削除され、削除された記事は2度と読み返すことはできない。

しかし、新聞や雑誌に掲載された記事はもちろん今も手元に残る。印刷物、記録は人類史そのものだ。

新聞社が編集局と販売網のコスト効率化をドラスティックに進めれば、デジタル戦略に力点を置いたとしても、新聞事業はビジネスとして生き残る。新聞記事制作の「入口と出口」で5Gを有効活用できれば、夢物語ですらない。

テレサ・メイ元英首相は、「新聞の廃刊は、民主主義の危機」とまで言及している。「新聞紙」という形態は忘れ去られたとしても、それは問題点ではない。デジタル・トランスフォーメーションを完遂することで、旧メディアが報道体制を維持する重要性は、民主主義の存在意義にかかわる一大事だと英元首相も示唆している。

ポスト新型コロナ時代、テレワークの徹底ひいてはメディアの大変革につながることを願いつつ。


連載:5G×メディア×スポーツの未来
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文=松永裕司

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