エボラと闘った米医師が訴える「マスク」を巡る重大な問題

vladaphotowiz / Shutterstock.com

新型コロナウイルスの感染拡大は、医療従事者が必要とするマスクの不足につながり、一般の市民には医療用マスクの買い占めを控えるようにと求められてきた。だが、その要請はこれまで、ほぼ無視されてきたようにみえる。

感染症と公衆衛生が専門の医師であり、エボラウイルスのような特異な病原体の感染の封じ込めや生物戦争における防衛を研究する筆者は、世界保健機関(WHO)の地域事務局、汎米保健機関(PAHO)がカリブ海諸国で行った新型コロナウイルス対策の準備を支援するための活動に参加。4月初めに米国に帰国した。

そのとき空港で見かけたのは、バンダナや手作りのフィルターから医療現場で一般的に使用されるものまで、さまざまな「マスク」を着けた多くの人たちだ。そして、その姿が示していたのは、新型コロナウイルスとその感染を防ぐためのマスクの有効性に関する「根本的な誤解」だった。

医療従事者が利用できるマスクの供給量が少なくなっている上に、多くの人が不適切なマスクの使い方をしていれば、感染の危険性はかえって高まることになる。

誤った使用の例


このパンデミック(世界的流行)のなかで、決定的に大きな問題となっているのは、誤ったマスクの使い方だ。例えば、空港の税関職員はアクリル製の透明のバリアで囲われ、保護されたスペースの中に座りながら、医療従事者用のN95マスクを着けていた。

一方、入国審査のスペースでは、旅客との間に30cmほどの間隔も保てない場所で、口元を何かで覆っておくべき職員たちが、何も着けずに立っていた。昼食を取っていたらしい4人家族のうち1人は鼻を出して、もう1人は顎の下にマスクを着けていた。

2人の客室乗務員はマスクを顎にずらし、間が30cmもないほど顔を近づけて、おしゃべりに熱中していた。ある若い母親は、身をよじらせて泣いているまだ歩けない赤ん坊の息子に、必死でマスクを着けさせようとしていた。その間、母親は何度も何度も、息子の顔を手で触っていた。
次ページ > 一度着けたマスクは「汚染」されている

編集=木内涼子

ForbesBrandVoice

人気記事