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2020.05.12

インドに新型コロナの検査ができるキオスク登場 医療系スタートアップの試み

Hindustan Times/Getty Images


「リープ・フロッグ」で世界を変える


それでは、このパルス・アンチコビッド・ステーションがどんなものなのか、具体的に見てみよう。

まず、気密性のある囲いでキオスク全体を保護する。さらに、庫内の気圧を高くすることで外気が入り込むのを防ぐと同時に、HEPAフィルターで流入する空気を清浄化。これにより、「検体採取者が防護服を着用する必要がなくなる」のだという。

キオスクの前面には手袋のようなものが付いていて、ここに手を入れて作業すれば、被験者に直接触れることなくサンプル採取ができる。検査に訪れた人は感染の有無のほか、BMIや血圧などのデータが測定され、糖尿病のリスクや高血圧などの基礎疾患がないかもチェックできる。必要に応じて、医師が検体採取者や被検者とやり取りできるよう、通信用のマイクやスピーカーまで設置されている。

従来のパルス・アクティブ・ステーションを進化させる形で生まれた新型コロナ対策用キオスクは、「テランガナ州の医療機関から高評価を得られたので、すぐにでも展開を始められるよう、いままさに製造にかかっているところ」だという。

ロックダウンの影響もあり、現時点では公共スペースへの設置は難しい。だが、ゆくゆくはこの新型キオスクを使って、感染爆発が起きているエリアでの1万人規模の検査実施も検討しているとタニケラ氏は話す。

「いまは政府関係者も医療従事者も、現場対応に掛かりきりになっています。自分たちのような存在が一翼を担うことで、政府機関は戦略立案などに集中できるようになるのです」

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新型キオスクには遠隔医療に対応できる設備も用意。移動施設としての利用も視野に入れている

混乱の渦中にありながらも、難局を乗り越えるべく挑戦を続けるスタートアップの存在は、未来のインドの公衆衛生のあり方をがらりと変えるかもしれない。

Mistletoe Singapore(ミスルトウ・シンガポール)のマネージング・ディレクターで、アジア各地でスタートアップ支援に携わる大蘿淳司氏は次のように語る。

「インドは医療や公衆衛生上の整備がかなり遅れているが、逆に言えば、新たな技術やイノベーションに抵抗する既得権益者も少ない。最先端を歩むスタートアップが協調し、さまざまなリープ・フロッグ(最先端技術の導入により一気に発展すること)が連続的に起きれば、国民生活の質を一気に改善することも可能になる。国連が示すSDGs(持続可能な開発目標)達成においても、一番の近道になるのではないか」

BC(Before Corona)とAC(After Corona)で、社会のあり方は大きく変容すると言われている。だが、「ネットワークを駆使しながら、病院の外で健康に対する気づきを与え、意識を高め、国民全体の健康状態を底上げする。私たちのビジョンは変わりません」とタニケラ氏は熱を込める。

そして、その先に彼が見据えるのは、未来の子どもたちの姿だ。

「私には、公衆衛生の専門家として国際機関で働く妻と、4歳の娘がいます。私たち夫婦はいつも、世界中の子どもたちが幸せであってほしいと話しています。それにはまず、誰もが健康でいられる社会をつくることです。健康があって初めて、地球規模の課題解決にも取り組むことができるのですから」

よりよい世界をつくる。そのためにも、新型コロナウイルスの感染拡大が一刻も早く収まることを願いたい。

文・写真=瀬戸久美子

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