勤務中にコロナに感染したら提訴できる? 企業の免責、米法案で焦点に

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米議会上院で作成が始まった次の新型コロナウイルス対策法案では、企業の法的責任がにわかに焦点に浮上している。企業の活動再開には従業員や顧客がウイルスに感染するリスクを伴うが、与党・共和党は企業が感染した関係者から訴訟を起こされる心配をせずに活動を再開できるよう、企業の法的責任を限定することを主張。これに対して、野党・民主党は労働者の保護を弱める措置は認められないと反対の姿勢で、両者がどこまで歩み寄れるかが注目されている。

こうした訴訟は米国内ですでに複数起こされている。イリノイ州シカゴでは、新型コロナウイルスへの感染による合併症で死亡したウォルマート従業員の遺族が、会社の不法行為で死亡したとして同社を提訴した。遺族側は、ウォルマートは従業員の症状を無視し、ほかの従業員に同僚の感染の事実を伝えなかったと主張している。

ウイルスの感染拡大を受けて営業を取りやめている企業は、従業員や顧客による訴訟をはじめとする活動再開に伴うリスクと、休止を続けることによって生じるコストとをてんびんに掛けている。休会状態となっていた上院は4日、再開した。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、共和党の上院トップ、ミッチ・マコネル院内総務は、企業の責任保護は共和党にとって「レッドライン(譲れない一線)」だと強調。これが次の対策法案に盛り込まれない限り、州や地方自治体への支援拡充を求める民主党の要求は支持しない考えを示している。

マコネルは先月末に出した声明でも、「連邦法と州法の巨大なもつれ」によって、活動を再開する企業は果てしない訴訟に巻き込まれる恐れがあると警告していた。

民主党は労働者保護を重視


一方、反対派は、企業の保護を拡大すれば、時差勤務の導入や個人用防護具の用意といった十分な安全策が講じられないまま、企業に見返りを与える形になると批判している。民主党は、どのようなものであれ、労働者の保護を弱める措置は支持できないという立場だ。

民主党のナンシー・ペロシ下院議長も「コロナウイルスと共にあるこの時期に、労働者の保護を減らすなどということは関心を持たれないだろう」と述べ、企業の責任保護を拡大することに反対している。

連邦政府による企業保護の強化が法案に盛り込まれなかった場合も、各州が同様の制度を立法化するという道は残されている。実際、ユタ州の議会は先月、企業を新型コロナウイルス関連の訴訟から守る法案を可決している。

法律事務所ペッパー・ハミルトンのパートナー、ウィル・テイラーは、ウイルスに感染した従業員側が企業側の安全対策やその不備に原因があったと証明するのは難しいだろうと予想する。それでも、従業員側に法的にとり得る対応がないわけではなく、企業は州や地方自治体の指示に完全に従っていたとしても、訴訟リスクを完全に免れるわけではないという。

全米各地の高齢者施設は、新型コロナウイルスに感染したり、それによって死亡したりした入居者の家族から訴訟を起こされる公算が大きい。そのため、高齢者施設側は免責を求めてロビー活動を行っている。WSJによると、これまでに十数の州が、病院や高齢者施設といった医療介護事業者に対して、医療過誤などの訴訟からある程度保護する措置を導入している。

編集=江戸伸禎

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