角「最終的には、S看護師が初期供述を撤回するのは一年後ですからね。それも、西山さんが逮捕された後で」
秦「実はつながっていた、と?」
角「はっきりとは言ってないんですが、『見ていない』という言い方だったかと」
再び角記者はパソコン画面に目を落とし、S看護師の調書を読み上げた。
「実際のところは外れているかどうか目で確認していません。勝手に(外れていたと)思い込み、『外れていたならどの程度か』と質問されて返事に困ってしまい、たぶんこの程度だと思って2センチ以内と答えてしまった」
秦「自分から言い出したの?」
角「どうもそうではなく、やはり『外れていた』ではアラームの問題と矛盾するから、警察がそう持って行ったんでしょう」
秦「西山さんが逮捕されてすぐ?」
角「それが、逮捕から10日もたってからなんですよ。入院者の家族の『アラームを聞いていない』という供述調書もすべて逮捕後に取り直しているんです。1年前に聞いていたはずなのに。そこもおかしいんですよ」
秦「最初は筋書きに合わないから無視してたってことか」
角「必要になったから取り直した。供述調書を追っていくとそう読めますね」
捜査現場にフェイク情報があふれているのは当然のこと。この事件で驚かされるのは、捜査機関として、事実の真偽を検証するプロセスが欠落していることだ。
「外れていた」という偽情報を安易に捜査員が鑑定医に伝え、死因を「窒息死」と誤った時点で、事件としての立件をはやるバイアスが組織全体にかかってしまった。それ以降は、信じたいものしか信じない、という非常時の群集心理さながらだ。発生時からひもとくと、事件はそんな流れだった。
事件化に向けて捜査バイアスが組織全体へかかっていったようだ。次週へ続く。(Shutterstock)
連載:#供述弱者を知る
過去記事はこちら>>