ここ10年から20年で、多くの人が会社ではなく自宅で働くようになっていた。ITツールが開発されて在宅勤務が可能となった結果だ。とはいえごく最近まで、在宅勤務については議論の的とされ、批判もあった。許容が全面的に進んでいたわけではない。
生産性が維持できないのではないかと疑問を呈する人も少なくなかった。在宅勤務する従業員がこれ幸いとばかりに、ほかのことに目を向けたり、勤務時間を減らしたりするのではないかと疑う者もいた。有効性や集中力、同僚同士の人間関係構築について懸念する向きもあった。2013年には、当時の米ヤフー最高経営責任者(CEO)マリッサ・メイヤー(Marissa Mayer)が同社従業員に在宅勤務の禁止を言い渡し、メディアを延々と騒がせたこともある。
時は流れて2020年。在宅勤務は必要に迫られて実施され、いまや完全に稼働するようになった。事前予告はなく、最小限の準備だけでそうした状況に追い込まれたわけだが、ご存じのとおり、仕事は滞りなく進んでいる。そこで、ここで一歩引いて、過去に例を見ない緊急さで行われたこの在宅勤務実験から、何がわかったかを検証してみたい。
在宅勤務への移行はそれほど難しくない
あらゆる企業や組織が、待ったなしの状態で勤務形態の切り替えを迫られた。慌ただしく決断し、新たな方針や手順を定め、在宅勤務へと移行したのだ。半年前には、これほどの驚くような大変動が訪れることを、誰ひとり予想していなかった。否応なしに在宅勤務を強いられ、躊躇している暇などなかった。委員会を立ち上げて問題を話し合い、一定期間の試行を経て報告書をまとめることもできなかった。行動は急を迫られた。
複合的な大企業の場合は、これほど広範囲にわたる徹底的な業務改革の導入にはたいてい何年もかかるものだ。しかし今回はその大半が、1週間とかからずに実行に移している。多くの人にとってはきわめて異例の事態であり、かつてないほどのスピードで意思決定が行われた。こうした動きが認められ、今後も適切に取り入れられていくことを願いたい。
意思疎通のかたちは多様だ
コミュニケーションを図らなくてはならない相手とは、同じ場所にいるのがいちばん効率的だ。とはいえ、すべての会話や会議、交流が同程度のつながり方を必要とするわけではない。私たちは意思疎通を図り続けるため、最新テクノロジーを活用する術を身に着けた。
教育分野でも進展があり、ひとつの授業に数百人が「一緒に」参加することも少なくない。学生は挙手して、教授から質問を求められる。そして学習は続けられる。
企業では会議が開催されており、作業グループはメンバーがそばにいなくとも仕事がはかどることを実感している。すべての状況でうまく行っているというわけではないにせよ、効果的なコミュニケーションはさまざまなかたちをとり得ることを私たちは認識すべきだ。