「アジアのベストレストラン50」で選ばれた3人のシェフが語る現在と未来

La Cime(ラ・シーム)の高田裕介氏


しかし、そんな彼女の自信に満ちた笑顔の裏に、苦難の日々があったことを想像できる人は少ないだろう。睡眠時間を削り、料理の仕事に没頭していた20代の頃、「同居していた父親が入院したことすら気づかず、死に目にも会えなかった」という庄司シェフ。霊安室で帰らぬ人となった父親と対面し「このままでは母とも同じことになってしまう」とショックを受け、いったんは料理の世界から離れた。

しかし、「ウェディングケーキをつくって欲しい」という元常連客の依頼がきっかけで料理の道に戻る。実は、庄司シェフは、知的障害をもつ妹との2人姉妹。「父を亡くし、妹のためにも、しっかり稼がなくては」と、自分の店をオープンするが、「もし失敗しても、母に迷惑がかからないように」と、借り入れ資金の1000万円とほぼ同額の死亡保険金が支払われる生命保険に入ったうえでの、覚悟の出店だったという。

「新型コロナ後は、シェフ自身がアイコンになって、お客様が会いに来てくれる店が生き残る」と語る庄司シェフ、店は最大6席で、1日1組のみの「オートクチュール」なスタイルだ。顧客にはデビッド・ベッカムなどの著名人が名を連ねる。

また、エルメスやカルティエのガラディナーを担当するなど、ブランド関係の仕事も多いが、ただ依頼が来るのを待っていただけではない。ブランドをイメージしたケーキをつくり、その画像を送るなどして、積極的に売り込みも行ったのだ。



お客様優先のため、急にVIPから予約が入れば、休みも返上する。スタッフは19歳と20歳の女性2名。金銭的な待遇だけでなく、海外のイベントにも同行させ、有名人が訪れれば紹介するなどして、「頑張ったぶんだけ報われる」チームづくりを心がけている。

「こんな小さな店でも、ベストパティシエになれたというのは大きなことです。お金がなくても、いい戦略といい作品があったらジャンプアップできるということを、若い女の子たちに見せていきたい」とも語る。夢を与えられる存在でいたいと思うからこそ、ファッションやメイクには手を抜かないのだ。

「今は仕事に100%の力を注ぎたいから、結婚や子供には興味が持てないですね。日本では、野心的な女性シェフはまだ少ない。5年以内に、ベスト女性シェフ、ミシュランの星も狙っていきます」とアジアのベスト・パティシエは力強く宣言した。
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文=仲山今日子

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