「アジアのベストレストラン50」で選ばれた3人のシェフが語る現在と未来

La Cime(ラ・シーム)の高田裕介氏


高田シェフは、奄美大島の出身で、カツオ漁師だった祖父が穫ってきた新鮮な魚が食卓に並ぶ環境で育った。これまで彼が食べてきたのは「シンプルで、食材の味覚を生かした料理」だという。いまは希少となった、クセのない脂が特徴の奄美在来種の黒豚である喜瀬豚を使うなど、郷土の食材への思いも深く、約6割が九州産で、それも含めて9割を国産食材で賄う。
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尊敬するのは、「ヌーベルキュイジーヌの後のモダンガストロノミーについて、古典をベースに考えている」ヤニック・アレノシェフと、「日本人が日本でつくるガストロノミーのあり方を、昔から追求してこられた」田代和久シェフだ。

「料理のジャンルに縛られない今の時代は自分に向いている。決めごとをつくりすぎると、料理の幅が狭くなると思うのです」と高田シェフは語る。昨秋は、韓国を訪れ、キムチづくりや本場の韓国料理を体験した。そうして海外の経験も積極的に取り入れつつも、実際に味覚をつくる過程では特定の国の味を意識することはないという。

むしろ、料理づくりにおいては、「左脳で考える」ことや個人のカラーを出すことを、あえて封印しているようにも見える。数年前、オープンキッチンが全盛となるなかで、あえて厨房を見えないように改装したのも、そんなポリシーを体現するためなのではないだろうか。
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言葉で定義することで物事は見えやすくなる。しかし同時に、定義することで、本来持っていた意味を狭めてしまう宿命をも併せ持つ。「ストーリーやジャンルに縛られず、純粋に存在する料理そのものの『頂点』を求めたい」というのが、高田シェフが理想とする料理の姿だ。それだけ強く、料理本来が持つ力を信じているとも言えるだろう。



新型コロナ以後について、高田シェフは「日本のレストランは経営の仕方を変える必要が出てくるでしょう。ウチは多くのスタッフを必要とする手数の多い料理を出しています。とはいえ、大きな資本を持たない個人店なので、いまのような薄利では、危機が起きたときに対応できません」と語った。

そして言葉を継ぎ、「でも、自分たちにはチームでしかできない仕事を継承していく責任があります。原価を下げるつもりはないので、将来的に値上げせざるを得ないでしょう。それでも満足してもらえる料理をつくっていく、それだけです」と力強く締め括った。

オートクチュールなスタイルを追求


宝石箱のような箱に詰め込まれ、美しくカットされたフルーツがキラキラと輝くケーキ。それが、東京のエテの庄司夏子シェフをスターダムにのし上げた「フルール・ド・エテ」だ。

今回「アジアのベストパティシエ賞」を受賞、一躍有名シェフの仲間入りをした庄司シェフは、モデルのような容姿とハイブランドを着こなすファッションセンスを併せ持つ。

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été(エテ)の庄司夏子氏

「繊細で精度の高い職人の手仕事を積み重ねて、ダイナミックで幻想的な世界観を表現するファッションの世界は、料理と重なる部分も大きい」と庄司シェフは言う。ファッションに感じる美意識と高揚感を、宝石箱のようなケーキに映し込んだのだ。
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文=仲山今日子

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