理想の経営者像は変わっていく
将来、理想のCEO像は変わるのか。
「戦略と実行、価値の3つは不動だが、企業内起業など、イノベーションへのさらなる理解が必要だ」とカー教授は言う。そのためには、より迅速で大胆な経営がカギとなる。
「明日のCEOは、『グローバリゼーション』と『テクノロジー』というゲームの達人でなければならない」
その先頭を行くのが、シリコンバレーのネットベンチャー企業だ。なかでもカー教授が「世界最大のホテルチェーン」と呼ぶ、旅行者向け空室賃貸仲介ベンチャー、Airbnb(エアビーアンドビー)は注目の的である。
同社のサービスの特徴は、パリやニューヨーク、東京など、世界3万超の都市の一般住宅などをホテル代わりに使えることだ。借りたい人と貸したい人の需給をオンラインでつなぎ、成功した。部屋を汚されたという苦情が出るなど、問題もあるが、創業者兼CEOのブライアン・チェスキー(33)は今年、米フォーブス誌の「世界長者番付」に仲間入りを果たした。総資産19億ドルの若きビリオネアだ。
「グローバリゼーションとテクノロジーで、従来よりずっと速く世界規模のプラットフォームの構築が可能だ」
「大学のラボからシリコンバレーまで、いまや『イノベーション』という言葉は、以前よりはるかに大きな意味を持つようになった」
「起業家の父」を自認する同教授が画期的な新規グローバル起業と考えるスタートアップの一つに、ハーバード大の卒業生と教授が06年に立ち上げた融資支援ベンチャー、アントレプレナリアル・ファイナンス・ラボ(EFL)がある。
中南米やアジアの新興市場の起業家について、リスク管理・融資返済能力など詳細な情報をデータベース化し、独自のアルゴリズムで成功する可能性をはじき出す。そして、金融機関と協力し、担保を提供できない起業家が融資を受けられるよう支援する。「革新的なテクノロジーと世界への影響」(カー教授)という点で急成長中のベンチャーだ。
最後にカー教授が注目している日本のCEOを尋ねると、「HBS出身者で、身内意識があるかもしれないが」と笑いながら、「楽天の三木谷浩史会長兼社長」という答えが返ってきた。英語の社内公用語化を断行し、「グローバル企業」を目指している点が評価できるという。
テクノロジーとグローバリゼーション―。この2つの「ゲームの達人」になることが成功の秘訣だろう。
ウィリアム・R・カー
ハーバード大学ビジネススクール教授。同校の「新規ベンチャー起動」プログラム責任者。専門は起業とイノベーション。2013年、米起業支援団体ユーイング・マリオン・カウフマン財団から優秀な若手研究者に贈られる「プライズ・メダル賞」受賞。