キャリア・教育

2020.05.11 21:00

「転職したら人間関係切れるって、なんじゃそれと思う」ヤフー伊藤羊一が築くフラットな関係

プラス代表取締役会長兼社長の今泉嘉久(左)と、Yahoo!アカデミア学長の伊藤羊一(右)


発想のヒントになったことを一つ。当時、東京駅前の丸ビルに、文房具屋さんが36店も出入りしていた。各社が午前便・午後便と日に2回届けてくるものだから、1日に72台、配送車が来るわけです。
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彼らの代わりに事務用品を配送する会社を作ったら、1日2台で済むんじゃないか、と僕は考えた。運転手の人件費、ガソリン代、駐車料金など全部入れたら、劇的にコストが下がる。下がった分を、販売価格を下げることで半分、お客様に差し上げる。

僕たちは1円も損していないのに、仕組みを変えることでお客様の満足が得られて、需要が伸びる。アスクルでは、配送だけでなく受発注などの仕組みも変えました。似たようなことが、どの業種でも山ほどありますよ。出版や建設なども、配列を変えるだけでピカピカのビジネス、儲かるビジネスになる可能性があります。

伊藤:この話はもう何十回も聞いたから、「丸ビル72台」まで覚えています(笑)。実は、同じストーリーをくり返し話すというのも、今泉さんから学んだ大切なことの一つです。
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僕は年間約300回、人前で話しますが、ネタは3つくらいしかありません。何度も話すと飽きるかと思いきや、1回話すたびに魂がこもってくる。同じことを突き詰めていくループから、新しい考えが生まれます。

ホワイトボードを使ったコミュニケーションも、今泉さん仕込みです。僕は取材を受けるときでも、人に伝えたいことはホワイトボードに書いてしまう。

今泉:僕は「ホワイトボード命」です。口で言えばわかるのに、なぜ書くのか? 例えば数字。25、45、98と並べてみても、単なる記号でしかない。ところが、それぞれをイメージした円を描くと、大きさが感覚的にわかります。

僕はよく「CS=SS」 とホワイトボードに大きく書いておくんです。するとその重要性が、ボードを見るたびに、相手にも自分にも伝わる。アナログな部分は本当に重要だと思います。

伊藤:もやっと考えていることはホワイトボードに書き出してみる。対話を大事にする。僕が5年前にヤフーに移ってからも、今泉さんとは年に1回、こうして会って話をしています。

転職すると、人によっては「裏切りやがって」という態度になることもあるじゃないですか。ところが今泉さんは、僕がヤフーに行くという話を切り出したとき、「君が行けば、宮坂(学=元ヤフー代表取締役社長)さんや川邊(健太郎=現ヤフー代表取締役社長CEO)さん、小澤(隆生=ヤフー取締役COO)さんと、君を肴にお酒が飲める。だから行ってこい」と(笑)。器の大きさが違いますよ。

今泉:彼を評価しているのは僕だけではないということです。それに、彼の持っている行動力は、うちにいるよりもヤフーのような新しい会社のほうが生かせることが目に見えていた。会社よりも、彼の一生のほうが大事。それはどの社員についても同じです。

伊藤:辞めるというより「ちょっと行ってきます」という感覚。僕という人間はヤフーであり、プラスであり、伊藤である。

そもそも会社を辞めたら人間関係が切れるって、なんじゃそれと思います。僕は誰とでも、所属やポジションに関係なく「FLAT」に付き合うことを心がけています。

今泉:僕は、彼が言う「3つのF」に「FRANK」を加えたい。年齢を経て会長という立場にもなると、色眼鏡で見られるし、相手との壁を感じてしまうことが多い。その壁を取り払い、一杯呑んだときのような環境をつくり出すことが大事。そうしないと、相手はどんどん離れていきますからね。

──対談の本編は、発売中のフォーブス ジャパン2020年6月号でお読みいいただけます。6月号ではそのほか、マネーフォワードCEO辻庸介、マクアケ代表取締役社長の中山亮太郎、作家の辻仁成から政治家野田聖子まで、全55組の師弟関係を一挙公開! ご購入はこちらから。


伊藤羊一
1967年生まれ。Yahoo!アカデミア学長。90年日本興業銀行(現・みずほ銀行)入行。2003年プラスに転ずる。15年にヤフーの企業内大学「Yahoo!アカデミア」学長に就任。著書『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術(SBクリエイティブ)』がベストセラーに。

今泉嘉久
1942年生まれ。プラス代表取締役会長兼社長。創業者である父の後を継ぎ83年社長に就任。オフィス用品の配送サービス「アスクル」を始め、「ビズネット」「ジョインテックス」等の新しいビジネスモデルを創造。2019年より現職。

文=揚原安紗佳、写真=平岩享

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