ヤフーの企業内大学「Yahoo!アカデミア」の学長を務め、著書『1分で話せ』は36万部突破、2021年からは武蔵野大学に新設されるアントレプレナーシップ学部の学部長就任が予定されるなど、横断的な活動が注目される伊藤羊一。ヤフー以前に勤務していた文具・オフィス家具メーカー大手、プラスを率いる今泉嘉久を「オンリーワンの存在」と慕い、いまも定期的に意見交換をしているという。
伊藤:Yahoo!アカデミアでは「FREE」「FLAT」「FUN」という3つの理念を掲げていますが、この価値観に繋がった考え方があります。それは、今泉さんが20年も前に話していたことなんです。
「FREE」とは、しがらみにとらわれずに新しいことをやろう、という考え方。まさに、今泉さんが実践してきた「仕組みを変える発想」です。
「FLAT」は、人はみな対等だということ。例えば、メーカーは顧客満足(CS)を大事にします。でも実は、供給者側の満足(サプライヤー・サティスファクション=SS)も同じくらい大切です。社員が幸せで、満足していることはエンゲージメントに繋がるからです。CSは、顧客もメーカーも満足している状態から生まれる。つまり、CSとSSは対等に考えるべきなのです。
いまでは当たり前の話かもしれませんが、僕は20年も前から、今泉さんから聞いている。世の中でまだ誰も言っていないときから、この理論を提唱されていたんです。
もうひとつ、今泉さんの言葉に「オフィスはメディア」というものがあります。オフィスは、企業の理念を社内外に伝えるメディアとして機能するという考えです。
20年前に言われたとき、僕は理解するのに1年くらいかかりました。当時、オフィスは利便性第一でしたから。でも今泉さんは、オフィスは企業の理念を伝えるメディアだと定義した。オフィスが会社のビジョンやコンセプトを表現する。いまだったら比較的すっと入ってきますよね。これは最後の「FUN」に通じる。
インターネットは、この「FREE」「FLAT」「FUN」を象徴するような存在だと僕は考えています。
今泉:こんなふうに、伊藤君とは根っこで通じる部分があるんです。僕の考えていることを話すと、ウンウンと頷いてくれる。それはもう、100万の味方を得たような気持ちですよ。賛同者がいるから前に進めるんです。
CSとSSは、もともとイコールにならないんです。「もっと安くして」「早く届けて」「土日もやって」と。お客様の要望は、サプライヤーからしてみると身を削る話ばっかり。
CS抜きに会社は存在できないけれど、社員の幸せ、会社の利益を考えたら何とかしなきゃいけない。経営の本質は、CSとSSを一致させるビジネスモデルをつくることなのだと気づきました。
その考えをもとにつくったのが、(1993年にプラスが立ち上げた)アスクルです。