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2020.05.07

緊急事態宣言延長、もう限界だ。写真家の強烈な危機感

Forbes JAPANなどで活躍するフォトグラファーの小田駿一さんが、この歴史的な非常事態宣言下の非日常の東京を写真に残したい、伝えたいと、撮影活動を続けています。この連載では撮影した写真と、写真家の思いをお伝えしていきます。これまでは夜の飲み屋街の「秩序」や幻想的な「光」を捉えた作品をご紹介しました。今回は緊急事態宣言の延長を受け、写真家が抱いた強い危機感を吐露しています。(編集部)


GIVE or DEAD / 秩序の崩壊を救うのは、GIVERだ。


しばしば通っていた中目黒にある飲食店が、廃業を決めた。10代後半から20代前半に連夜お世話になった渋谷のナイトクラブも閉鎖を決めた。緊急事態宣言が5月末まで延長になる中で、経済的にもすでに崩壊が現実化しつつある。

自宅で外出自粛生活をしていると、どこか非現実的にも映る今の有り様。その状況の中に身を置いていると、どこか遠い国で起こっていることの様に感じられることもあるのではないか。

冒頭の二つの出来事は、私の目を覚まし、これが現実であることを厳然と自分に気づかせるには十分だった。そして、私に何もできない歯がゆさと無力感を突きつけた。少なくとも、社会に言葉を発信できる立場としての責任も実感することになった。

「まずは、GIVEすること、GIVE&GIVE&GIVE。TAKEなんて考えるな。それができなきゃ絶対生きていけない。特にこれからは」

フォトグラファーとして独立したばかり、仕事も全然ない時期に、相談に乗ってくれた先輩がくれた言葉だ。

もちろん、完璧に実践できているわけではないけど、この言葉を胸に今まで活動し、なんとか家族と自分の生活を支えられるくらいには仕事を頂けるようになった。無条件に与えられてきた子供時代から、今度は誰かに何かを与えられる大人に。そんな人生の大切な事を教えてくれた大事な教訓だ。私が取り組んでいる写真集の制作や飲食店支援のためのクラウドファンディングプロジェクトも、実はこの言葉に支えられて始まっているのかもしれない。

ただ、私がいい奴だから、道徳的だから、聖人君子だから、高邁だから、人にGIVEしたいと思っているのだろうか。答えは、否だ。「情けは人の為ならず」と昔の人は上手いことを言ったものだが、利他の気持ちや行動が、「風が吹けば桶屋が儲かる」と言うように、利己的な何かとして自分に返ってくるかもしれない。そんな浅薄な期待も心のどこかにはある。そして、事実、私自身多くの人に助けられてきた。

最近メディアでは、信用経済だ、個の時代だ、という言葉が目立つ。この緊急事態下でも輪をかけるように、「WITHコロナ時代の働き方 / 生き方 / 商売の方法」が喧伝される。それも全然いいし、間違っていないと思う。

ただ、第一に「個」として活躍する、人に求められる資質は、「GIVER」であることなんじゃないかと思う。だって人間だもの。好きな人と、過去助けてくれた人と働きたいから。そしてもう一つ、間違いなく言えるのは、未来じゃなくて、現在に向き合わないと未来は良くならないということ。

この緊急事態を無理やりにでもポジティブに捉えようとするなら、多くの人に「GIVER」になるチャンスをくれているのではないかと思う。外出を自粛し、家にいる中でも、誰かのためにできることはたくさんある。寄付でも、テイクアウトを買うことでも、なんでもいい。目の前で困り果てている人はたくさんいる。そんな人のために、「GIVE」できる何かを、行動をもっと多くの人がとってほしいし、私もとりたい。

「もう限界だ。背に腹はかえられない」


「もう本当に限界……。背に腹はかえられない。どうしたらいい?」

親交のある飲食店経営者は緊急事態宣言が延長になるかもしれないという報道が出た時、私に本音を漏らした。インターネットを見ると、「運転資金を持っていない会社が悪い、お店が悪い」という発言も目立つ。果たしてそうだろうか?

飲食店を個人でやっている方、小規模で会社を運営している経営者。店舗をオープンするために、会社の設備を整えるために、個人保証をして、数百万円から数千万円を借り入れて事業をスタートする。この裏には、会社を始める期待感と、会社がうまくいかなかったら、すべて自分の借金、自己破産も考えないといけないという怖さが同居している。元々貯めていた元手となる資金も往々にして、会社を立ち上げている時期の赤字で食いつぶしてしまうことが多い。

そんな人に、「もっと金借りておけよ。借金できるから」なんて簡単に言えるだろうか。私には口が裂けてもそんなことは言えない。私自身も小さな会社を経営しているからなのか。それともフリーのカメラマンだからなのか。確かに、自分の立場もあるかもしれない。でもその前に一人の人間として、相手を想像する。人から何か得をすることを考える前に「GIVE」する。先輩がくれた言葉が、教えが根底にあるからだと思う。

私が緊急事態下の東京の夜を撮影した写真を見ていただきたい。多くの飲食店の方々が、破産するかもしれないと恐怖感を抱えながらも、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、店を閉めている。そして少なくとも、もう本当に破産している人たちがいる。

ここで私たちが行動を起こさないと、あの楽しかった夜の街も、バーでの友人とのかけがえのない会話も、家庭でも職場でもない居心地がよかったコミュニティーも永遠に失われるかもしれないのだ。

誰かのために「GIVE」するのではなくて、自分のために「GIVE」して欲しい。そんなみんなの気持ちがあれば、救われる人はきっといるはずだ。そして、あなた自身も、この緊急事態が過ぎ去った後に、自分に感謝することになると思う。

GIVE or DEAD。すべては、「GIVE」できるかどうかにかかっている。今の世界を少しでもよくするために、未来の自分を守るために。

新宿 コロナ
人の気配が全くない、新宿センター街「思い出の抜道」。緑色の街灯が不気味に光を放つ。

コロナ 写真
どこまでも続くシャッターと、遠くに聳える紫色のビル。ブレードランナーの世界に迷い込んだみたいだ。

コロナ 写真
いつも、漏れて聞こえるカラオケの声。今、チカチカ光る蛍光灯の音が通路に響く。

コロナ 写真
人の代わりに並ぶ電球。心なしか、ヘソを曲げているように見える。早く明るい笑顔を見せて欲しい。

コロナ 写真
誰もいない新宿ゴールデン街。街は、金色じゃなくて、黒色に染まる。唯一のお相手は、自動販売機。

コロナ 写真
車窓から見える原宿駅。人もいないのに、照明さんはせっせと世を照らし、新しい写像を作り出す。

コロナ 写真
三軒茶屋の三角地帯。優しい雰囲気がする街だけど、今、訪れると一人で歩くのも怖くなった。

コロナ 写真
路地に捨てられたマスク。投げ捨てられるのは、マスクが先か、我が先か。少し自分を投影する。


小田駿一◎1990年生まれ。福岡県出身。早稲田大学卒業。2012年に渡英し独学で写真を学ぶ。2017年独立。2019年にsymphonic所属。人物を中心に、雑誌・広告と幅広く撮影。高画質の作品はこちら

文、写真=小田駿一

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