「場」の価値が揺らぐ。軍地彩弓が見出す、コロナ禍における「D2C」の可能性

ファッションエディターの軍地彩弓


「スローダウン」のいまだからこそ誠実なビジネスを


今回のコロナ禍に直面し、ファッション界には大きな試練が訪れています。ファッションデザイナーのジョルジオ・アルマーニは公開書簡で「今回の危機は業界の現状を一度リセットして、スローダウンするための貴重な機会だ」と表明し、シーズンサイクルに振り回されてきたファッション界に警鐘を鳴らしました。

Armani
ジョルジオ・アルマーニ(Shutterstock)

ここ数年、インバウンド需要で「延命」を続けていたブランドも、このスローダウンで本質的なものづくりに立ち返るチャンスと捉えるべきです。

この先しばらく海外への渡航制限が続くようであれば、中国をはじめ海外に生産拠点を持つアパレル企業はどんどん厳しくなるでしょう。かと言って国内に生産拠点を移すにも、かつて隆盛を誇った縫製工場は潰れ、国産比率は数量ベースで3%以下と言われています。現在残っている企業でも、ミシン縫製業の場合、平均年収は200万円台とかなり厳しい状況にあります。

国内の作り手に利益を還元せず、地方の縫製業の後継者を育ててこなかったツケが回ってきたのです。いまこそ、健全で誠実なものづくりを行い、働く人にしっかり還元する。消費者が本当に欲しいと思えるものを、適正量かつ適正価格で販売する。拡大を目指すのではなく、地に足のついたビジネスを行うべきなのではないでしょうか。

アパレルプラットフォーム「シタテル」では、受注生産から販売をワンストップで行うD2Cサービス「SPEC」の提供をスタートさせました。余剰在庫を抱えることなく、顧客が欲しいアイテムを受注し、シタテルのテクノロジーとサプライチェーンを活用して生産し、EC販売できます。これまで調達、生産、流通、在庫管理、販売……と、膨大なリスクを負わなければ実現できなかったブランドビジネスが、ひとりから始められるようになったのです。

過剰な生産や性急な消費をいったんリセットし、個人の思いを起点に、人と人がつながることで熱量が生まれる。さらにテクノロジーとクラフトマンシップが強く結ばれることで、本来あるべきファッションを取り戻すことが可能となるはずです。



かつて百貨店では、ブランドがどのフロアのどの場所に陣取るのか、熱い攻防が繰り広げられていました。けれどもこうしてコロナ禍によって「場」の価値が不確かなものとなるなかで、「表参道にある」「百貨店に出店している」ことが権威となり、ブランド価値が上がっていた時代は、もう終わるでしょう。

人々が家にこもり、不要不急の外出をせずに日々を過ごしているあいだに、本質的なものづくりやファッションのあり方を捉えなおすこと。そしてオンライン上でしっかりと自らのフィロソフィーを伝え、ストーリーを語ること。そうやって、あらためて消費者と向き合い、関係性を結ぶことで、またリアルの場で出会えたとき、その熱量が未来に光を灯すのではないでしょうか。


軍地彩弓(ぐんじ・さゆみ)◎編集者/大学卒業と同時に『ViVi』編集部で、フリーライターとして活動。その後、雑誌『GLAMOROUS』の立ち上げに尽力。2008年に現コンデナスト・ジャパンに入社。クリエイティブディレクターとして『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。2014年に自身の会社、株式会社gumi-gumiを設立。『Numéro TOKYO』のエディトリアルアドバイザー、Netflixドラマ「Followers」のファッションスーパーバイザー、企業のコンサルティング、情報番組のコメンテーター等幅広く活躍。

取材・文=大矢幸世 企画・編集=水野綾子+武田鼎 写真=栗原洋平

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