豊かなコミュニケーションが一体感を作る
市内の有志者も、積極的に帰省自粛の学生のための物資を届ける準備をしている
燕市は、金属洋食器や鎚起銅器などの金属加工産業を中心とした中小企業が1800社ほどあるものづくりのまちだ。ものづくりは燕市のアイデンティティであり、他の自治体にはないユニークな特徴である。市民は誇りに思っているという。
そんな中、市内有志の声を受け、市との共創が生まれた例は過去にも存在する。
市内にある、学生が滞在できるインターンシップ受入施設「つばめ産学協創スクエア」もその一つだ。日本のものづくりを支える中小企業が集積する産地全域をインターンの場とすることで、複数の企業が協力してインターンを受け入れている。多くの学生と市内の企業が結び付くことで、互いに新しい価値や関係性を生み出せるように、また首都圏へ出た学生が燕市に戻り活躍してくれれば……と、市内の事業者が市に提案したことがきっかけだ。
もう一つ、毎年10月の最初の4日間、燕市と隣接する三条市で開催される「燕三条 工場の祭典」というオープンファクトリーイベントがある。普段見ることができない工場も含め、100以上の工場の見学や、さまざまな体験ができるイベントで、4日間で5万人以上が来場する。これも、市内事業者の提案を受け、燕市と三条市の二つの自治体が協力して実施しているものだ。
行政の施策や対応は、民間の感覚とずれてしまうことが多分にある。個人の人間関係と同様、行政と民間も、普段から密なコミュニケーションを取ることにより、お互いがお互いを思いやっているとの認識が生まれ、信頼が生まれ、意見が生まれる。
それは、お互いがもっと良くなるように考えられた思いやりを持った意見であるため、実現に向けて協力していく。そのうちにさらに強固な信頼関係が築かれていき、結果的に民間のニーズに合った策を講じることができるのだ。
相手の立場に立って考え、必要ならば形を変えていく
帰省自粛の同市内出身の学生たちに届ける新潟県産のコシヒカリ
燕市の若者への想いを聞いてみた。
「若い人たちには、燕市の出身であることに誇りをもって、これからの人生を歩んでほしいと思います。外の世界へ羽ばたき、どんどん活躍してほしいと思うと同時に、またいつか、燕市に戻ってきてほしいとも思います」(同市役所職員)
今回の取り組みで情報拡散の手段として使用された「東京つばめいと」は、元々進学で首都圏へ出ていく学生のUターンを促進させるため、首都圏在住の燕市出身者に加え、燕市に興味を持っている若者を対象に実施する、様々なイベントやインターンシップの受け入れ、情報提供の事業としてスタートした。
当初は若者にまちに帰ってきて欲しいとの思いからUターン志向が強かった事業だったが、現在は首都圏で生活する燕市出身者への応援や、つながりを大切にするという要素も付け加えられている。
なんかほんとに泣きそうになった、、
— としき (@adtr_toshi23) April 18, 2020
ありがとう燕、全国に誇れるふるさと#コロナに負けるな #新潟#燕市pic.twitter.com/alxADuUsR6
「おいしいご飯をモリモリ食べて、少しでも元気を出してほしい」
市長が米などとともに送ったメッセージには、同市出身の若者たちへの想いが感じられる。
第2弾では、学生が大好きな燕市のご当地グルメ「背脂ラーメン」も届けた。
燕市は今回の活動のみならず、雇用の維持と事業の継続のための様々な援助金、補助金制度など独自の支援策を講じ、今後も学生たちがいつでも帰って来られる「ふるさと」を守る取り組みを続ける方針だ。