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2020.05.06 19:00

師匠は年長者とは限らない。篠田真貴子は二回り下に生き方を学ぶ #新しい師弟関係

エール取締役の篠田真貴子。写真=エール提供

新型コロナウイルスの影響で、人との物理的な距離感、コミュニケーションの仕方が変わるなか、「いかに人間関係を育むか」は、この先の大きな論点のひとつだろう。 4月25日発売のフォーブス ジャパン6月号では「新しい師弟関係」に焦点を当て、全55組の師弟を紹介。本誌掲載記事から一部抜粋でお届けする。


マッキンゼーなど外資系でキャリアを積み、2018年に約10年間務めたほぼ日のCFOを退任した篠田真貴子。企業に属さない「ジョブレス期間」を過ごしたあと、20年4月にアーリー・スタートアップのエールの取締役に就任した。リンクトイン創業者のリード・ホフマンによる、企業と個人のフラットな関係を説いた名著『ALLIANCE アライアンス──人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』の監訳にも携わった篠田。彼女が大事にする、若い2人との不思議な関係とは。

篠田:ジョブレスの間、時間を費やしていたのは、読書や断捨離に、自分のスキルの見直し。それから、とにかくたくさんの人にお会いしました。

秋ごろに集中的に顔を合わせていたのが、中学生の時から経営者として活躍していた仁禮彩香さん(22)と、連続起業家の柏谷泰行さん(34)。 もともと面識があり、昨年、2人から「新規事業の構想を練るので話を聴いてほしい」と連絡を受けたのがきっかけで密に会うようになりました。


タイムリープ代表取締役社長の仁禮彩香(にれい・あやか)いわく、「篠田さんは話をまっすぐ聴き、本質に迫る質問を投げかけてくれる。言語化できない思いまでも理解し、思考を整理してくれます。ファンキーとエレガンスを兼ね備えた人」。

2人が企画していたのは、現代の人が感じる「生きにくさ」というコンセプトのサービス。より内容を充実させるには自分たちの感情を棚卸しすべきだと言って、2人は数週間、ほぼ毎日、対面で打ち合わせを重ねていたんです。私の役割は、それを横で聴き、気になる点を質問すること。彼らにとっては、第三者の視点が入ることで、さらに思考が深まるようでした。


エラーズ代表取締役の柏谷泰行(かしわや・ひろゆき)。篠田について「好奇心と知的欲求がいっぱいで、良い意味で子供のよう。一緒に話をするだけで『なんだか今日もいい日だったな』と思わせてくれる不思議な何かがある」と評す。

2人の話している内容は非常に興味深く、私にとっても有意義な時間でした。というのも、彼らは私にない「経営者としての経験と視点」を豊富に 持っているから。しかもテクニックに頼るのではなく、自分の人生を深く見つめて、そこから浮き彫りになる価値観や社会に対する願いを事業に投影していた。その姿勢が素晴らしいなと思ったんです。

気づけば、私自身も2人と同じ視点から次の仕事を模索し始めていました。そこで改めて自覚したのは、これまで日本企業や複数の外資系企業で働いてきたなかで、自分は一貫してコミュニケーションに対する問題意識を持っていたこと。

いまの日本社会では伝え方ばかりが注目されて「聴く」重要性が見落とされがちです。特に、日本にはまだ年功序列やヒエラルキーが根深く残っていて、上司から部下、大企業から中小企業といった、上から下への一方的なコミュニケーションが多くなっています。

これは、非常に危険な状態です。なぜならば、下の人はただ言われたことに従うだけで、思考が停止してしまうから。すると、新たな発想やイノベーションが生まれる機会も奪われてしまいます。

私が30代で勤めていたマッキンゼーでは「誰が言うかではなく、何が言われているかが重要」という考え方が重視されていました。コンサルタン トとしての技量に関しては明確な上下 関係があったけれど、それ以外はすべてフラット。肩書きや役割に縛られずに、全員が自由に発言し、同時に、他の人の言葉に真剣に耳を傾けていました。

この経験からも、コミュニケーションがフラットになることによって新しいアイデアやいいものが生まれてくると確信しています。(続きはフォーブス ジャパン 2020年6月号でお読みいただけます)

年若い2人に感化された篠田が新たに選んだ道は──。そのほか、マネーフォワードCEO辻庸介、マクアケ代表取締役社長の中山亮太郎、作家の辻仁成から政治家野田聖子まで、全55組の師弟関係を一挙公開。フォーブス ジャパン2020年6月号は現在、好評発売中! ご購入はこちらから。

 

篠田真貴子◎1968年、東京都生まれ。日本長期信用銀行、マッキンゼーなど複数の職場を経て、ほぼ日に入社。取締役CFOを務めたのち、18年退任。20年よりYeLLにて現職。

仁禮彩香◎1997年生まれ。中学生で会社を設立し、高校生で学校を運営。2016年に現タイムリープ設立。ERRORs代表取締役。

柏谷泰行◎1986年生まれ。イグニス、Mellowなどを経て、3社目の起業でERRORsを設立した連続起業家。

文=吉田彩乃

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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