ビジネス

2020.05.02

コロナ以降は「応援消費」の時代に arca代表・辻愛沙子が挑む「社会派クリエイティブ」

arca代表取締役社長・辻愛沙子さん


企業に求められるのは「パフォーマンス」でない「真摯な倫理観」


では、消費者から「社会的メッセージ」が注目される時代において、企業が意識すべきこととは何か。

「私が最も大切だと感じるのは、自社の歴史やポジションを真摯に見つめ直し、向き合うべき社会課題を選定すること。どれだけ社会に良い取り組みであっても、商品やサービスとの関係が密接でない場合、消費者からは“パフォーマンス”と受け取られてしまうからです。

最近では飲料メーカーからラベルレスペットボトルが生産され始めていますが、これはある意味で過去の自分たちの罪を認める取り組みです。しかし、だからこそ社会課題の解決に大きく貢献しますし、その姿勢は生活者からの信頼を獲得します。不都合な事実と向き合わず『自分たちは何も悪いことをしていません』という顔で社会課題に取り組んでも、生活者は見抜いてしまうんです」


「社会に対してオールクリアな企業も、オールクリアな生活者も存在しません。だから、完璧を求める必要はないのです」と語る。

また、企業が社会的スタンスや取り組みを発信する際に障壁となるのが、社会課題の「正解がない」という性質だと話す。

「たとえば飲食チェーンがプラスチックストローを廃止するとき、プラスチックによる海洋汚染は減らせるかもしれませんが、日本での生産が少ない紙ストローを輸入する際の燃料で地球を汚染する可能性があります。アパレルブランドがレザーの使用を廃止するとき、直接的な動物の殺生は減るかもしれませんが、フェイクレザーの製造で使う石油が間接的に魚の命を奪うかもしれません。『男女平等』もどちら側に立つかで見え方が大きく変わります。

社会構造は非常に複雑ですから、万物に遍く適応される『絶対正義』は難しいのです。ただ、正解はないからこそ、企業として“自分たちはどうあるべきか”を考え抜くこと、そしてその意思を表明し、一歩を踏み出すことが重要で、その勇気に生活者はついてくると思います」


arcaはクライアント主導ではない自社事業も展開している。「自分を知る」ことによる女性のエンパワーメントを目指すプロジェクト「Ladyknows」は、メディアとして女性に役立つデータや声を発信しながら、リアルイベントも定期開催。500円で健康診断/婦人科検診を受けられるイベント「Ladyknows Fes 2019」では、賛同する企業のマーケティングの場所として価値をつくることで協賛金を得て、検診費用を格安にした。100人限定の乳がん検診はチケットが即完売した。「多様な顧客を抱える大企業の場合は、ひとつの社会課題だけに絞って旗揚げするのが難しいこともありますが、協賛・応援するという形なら意思表示できることもあります。小さな会社だからこそ、そんなプラットフォームを作れると考えています」

みなが自分の倫理を自分の言葉で発せられる時代に


最後に、これからの世界における「社会派クリエイティブ」の存在意義についても聞いた。

「安倍総理が星野源さんとコラボレーションした動画が賛否両論を巻き起こしていましたが、社会的なメッセージには受け手の感情を想像したプロのクリエイティブが必要。広く届けるためには分かりやすさやユーモアがあることはとても重要ですが、一方で、切実なテーマであればあるほど繊細なバランス感覚が重要になります。

小手先でできることではないのでクリエイターも日々社会課題について考える必要が出てきますが、それは多くの方の目に触れるものをつくる上で然るべき学びであり責任です。私自身も疲弊してしまうこともありますし、まだまだ足りていない部分も多いのですが、自分なりに考えたスタンスを表明し続けることで、若い人たちを始め、みなが自分の倫理を自分の言葉で発せられる時代になればいいなと思います。

教科書の1ページに載る非常に重い時代を生きなければならない今だからこそ、一人ひとりがそれぞれの信念を持ちながら、社会を良い方向に進めていけたらと強く思っています」



社会課題を「自分事」として捉えてきたZ世代の活動が、日本の新たな未来をつくり始めている。

文=黄 孟志

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