「私の師匠は息子だけ」政界の一匹狼・野田聖子が信じるもの #新しい師弟関係

自民党の野田聖子衆議院議員。写真=Getty Images

新型コロナウイルスの影響で、人との物理的な距離感、コミュニケーションの仕方が変わるなか、「いかに人間関係を育むか」は、この先の大きな論点のひとつだろう。 4月25日発売のフォーブス ジャパン6月号では「新しい師弟関係」に焦点を当て、全55組の師弟を紹介。本誌掲載記事から一部抜粋でお届けする。


女性初の衆議院予算委員長に就任し、「女性初の自民党総裁」を目指すと公言する野田聖子。1993年の衆院選初当選から、党のヒエラルキーに与せず、師匠もいない。彼女が信じるのは、数字とフラットな関係、そして障害のある息子の教えだ。4月初旬の本誌インタビューで、自身の信条について語った。

野田:私は政治家になってからずっと一匹狼。無派閥ですし、師匠はいません。では、四半世紀にわたる私の政治家人生の支えは何か。一つは統計、もう一つは「パソ通仲間」です。

パソ通仲間というのは、インターネットの前、当時のパソコン通信を通じて連絡をとっていた、障害を持つ若者たちです。私は26歳で岐阜県会議員に当選しましたが、師匠も支援者もおらず、とにかく仲間をつくりたかった。彼らに「仲間に入れてやるから、パソコンを買え」と言われて、当時100万円もするNECのPC-98シリーズを買い、話をするようになりました。

障害が重くて対面では話せない人も、パソコンを通じて会話ができる。男女の話もしましたね(笑)。障害があっても普通に性欲があったり、邪(よこしま)だったり。そういうことを知りました。もう亡くなった方も多いですが、 仲間のひとりの森一毅は、20年以上うちの議員秘書をしています。

応援してもらいたいという邪な気持ちで始めたパソ通ですが、活用すれば障害も克服できると知り、それを極めたいと思いました。

6年後に国会議員になり、当選2回目で小渕内閣の郵政大臣に任命されると、経済政策の一環として、情報通信の推進を担当しました。当時のインターネットは従量制で、遅くて高い。どうやって広めればいいのか。パソ通仲間に聞いたら、「使えば使うほど高いんだから、どんなに使っても定額にすれば広がるよ」「そうだ、そうだ」って。定額制に変えたのは私の実績です。

国会議員の主たる仕事は立法。私は、法律は自分の作品だと思っています。いくつも法律をつくりましたが、どれも困っている人たちからのシグナルを形にする作業でした。代表作は発達障害者支援法。発達障害の子どものママに頼まれました。児童買春・児童ポルノ禁止法はNPOの女性の陳情から。

そういう人たちとはブロックチェーンのようなつながりです。肩書きもキャリアもない、イコールな立場。フラットな関係なので、師匠ではないですね。

統計は、毎年総務省統計局が出している『日本の統計』という本。国会議員になったとき、故・竹下登先生にもらいました。建設大臣だった祖父は、私が国会議員になることに猛反対しましたが、当選後は孫娘が心配でいろいろ頼んでくれたようです。

竹下先生が当選早々呼んでくれて、「政界は悪い意味で男の世界だ。女は感情的だ、了見が狭いと言って意見を聞かない。それに打ち勝つには客観性だ。男は数字に弱いから」と。

私は政策を立てるときは、数字で説得します。「この人たちが可哀想なんです」と言ってもダメ。経済損失がいくらなのかとか、統計を使って説明する。 嫌な女だと思われたでしょうね(笑)。

本当の師匠は息子でしょうか。息子を産んでから、政治家として花が咲いたと思います。それまで、政治と自分に矛盾を抱えてモヤモヤしていました。政治は社会の弱者のためにありますが、私は弱者ではない。女性ですが、結婚するまでは男性のように好き放題働けた。

うちの子は重度の障害があるので、社会的弱者のトップです。いま新型コロナで何より心配なのは、子どものこと。国会に来たくないとさえ思う。全国から集まる議員の誰かが感染していたら? 私がよくても息子にうつってしまったら? それが母親の気持ちです。弱者と共同生活して初めて、こんなにも弱いんだと気づきました。

以前は外野にいてサポートする立場でしたが、いまは一緒に騎馬戦をしている感覚で、パソ通仲間とも肩を並べられた。何の迷いもなく政治に向き合えるようになりました。

息子のおかげで理解できたこと、救われたこと──続きはフォーブス ジャパン 2020年6月号でお読みいただけます。そのほか、マネーフォワードCEO辻庸介、マクアケ代表取締役社長の中山亮太郎から作家の辻仁成まで、全55組の師弟関係を一挙公開。フォーブス ジャパン2020年6月号は、現在好評発売中! ご購入はこちらから。



野田聖子◎1960年生まれ。上智大学外国語学部卒、87年に岐阜県議会議員、93年に衆議院議員選挙に初当選。郵政大臣、総務大臣、内閣府特命担当大臣など歴任。9期。祖父は建設大臣を務めた故野田卯一。

文=成相通子

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事