経済・社会

2020.05.02 07:30

パンデミック後の世界と日本の資本主義を考える

欧州出身の米経済学者で、2016年に話題をさらった『大不平等──エレファントカーブが予測する未来』(みすず書房)の著者でもあるブランコ・ミラノヴィッチ。

ニューヨーク市立大学大学院センター客員教授で、社会経済的不平等研究ストーンセンターの上級フェローでもあるミラノヴィッチに、新刊『Capitalism, Alone: The Future of the System That Rules the World』(『唯一残ったのは資本主義──世界を制するシステムの未来』未邦訳)について聞いた。


──あなたは、『Capitalism, Alone』の中で、世界は資本主義の一人勝ちだと書いています。米国に代表される「Liberal Meritocratic Capitalism」(自由主義に基づく能力本位の資本主義)と、中国に代表される「Political Capitalism」(政治的資本主義)が世界を席巻していると。

まず言いたいのが、いまや資本主義が世界で唯一のシステムだという点である。世界中で生産は民間セクターにおいて、利潤追求のために行われている。

2つ目のポイントは、労働者が資本に雇われ、起業家の役割を担っていないこと。3つ目は、経済活動が分散的で、社会主義のような「計画」に基づかない点だ。 こうした資本主義の特徴を考えると、欧米や日本をはじめ、中南米、ロシア、中国も資本主義国だ。民間セクターで働く人々や自営業者が、同国労働力人口の約92%を占め、国営企業で働く人は10%未満だ。国内総生産(GDP)の約3分の2を民間セクターが占めている。

自由主義的資本主義と政治的資本主義という差はあるが、資本主義は世界を席巻している。自由主義的資本主義と政治的資本主義という構図にしたのは、両者には政治システム上の違いがあるからだ。

前者は民主主義による多党制。後者は、一党体制による長期支配が特徴だ。 一方、自由主義的資本主義と政治的資本主義は、米国対中国という図式にとどまらない。本の中で、前者については欧米や日本、韓国など、後者はロシアやエチオピア、ラオス、シンガポールなどを取り上げた。

──両資本主義の強みと弱点は何ですか。

政治的資本主義の強みは、政府がうまく経済のかじ取りを行い、高成長を達成できれば、国民は収入の多さを求め、(投票などの)政治的権利を犠牲にすることもいとわない点だ。

高い成長率や国民の福祉向上を実現させることで、国民に対し、自由を制限されてもしかたがないと思わせることができる。 とはいえ、そうした強みは、高成長の達成やモノ・サービスを国民に提供し続けられるかどうかにかかっているため、実現は容易ではない。

政治的資本主義には、選挙という国民のフィードバックがないため、非常に効率的だが、政権交代のすべがないことが大きな非効率性を生む可能性もある。
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インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=ポール・ライディン

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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