パンデミック後の世界と日本の資本主義を考える


──本の中で、資本家と労働者の収入格差について、詳しく分析していますね。

資本家は配当や利息、家賃収入。もう一方は、労働を提供して得る給与や賃金だ。両者を比べると、資本所得のほうが、はるかに集中度が高い。資本から巨額の所得を得ている人は少数の富裕層に限られる。資本の割合と国民所得が増えるにつれて、個々人の格差も広がる。

つまり、資本が少数の資本家に集中しているかぎり、個人間格差の縮小は期待できないということだ。資本所得の割合が増え続けるとしたら、税制などの政策変更か、資本所有を拡大することが有用だ。

──あなたは、本の中で「平等主義的資本主義」を評価しています。台湾がそれに近いそうですね。

台湾は他国に比べ、資本所得の分配における格差が比較的小さい。(1950年代初めの)土地改革など、歴史的背景も平等主義的だ。大企業が少なく、小企業が多いことも特徴だ。こうした理由から、資本の集中が抑えられている。

自由主義的資本主義では資本の集中という問題に対処できないが、サッチャー元英首相の「人民資本主義」や平等主義的資本主義なら対処できる。人民資本主義は、人々の株式保有を推進し、資本所有と財産収入の分配を中流層にまで広げようとするものだ。

──日本が平等主義的資本主義に近づくためには、どうすればいいでしょう?

日本には平等主義的な歴史があり、欧米よりも賃金格差が小さく、雇用も安定している。米国のように解雇自由ではないことが格差縮小につながっている。超富裕層も少ない。一方、資本所得と資本所有の集中が非常に顕著であるため、所得税制の改正だけでは足りない。資本所有の拡大が必要だ。

──資本主義の未来はどうなると思いますか。

資本主義のさらなる隆盛は必然だが、資本主義の向上には、小口投資家や中流層にも資本所有を広げ、エリート大学へのアクセスを拡大させるといった政策が必要だ。相続税の充実や、選挙戦を公金でまかなえるようにすることも重要だ。政治資金を富裕層に頼ると、彼らの都合が優先されてしまう。 資本主義は人間がつくり出したシステムだ。その未来は私たちの選択にかかっている。


ブランコ・ミラノヴィッチ◎ベオグラード大学で博士号を取得後、世界銀行調査部の主任エコノミストを20年間務める。ニューヨーク市立大学大学院センター客員大学院教授。所得分配について、またグローバリゼーションの効果についての方法論的研究、実証的研究を多数発表。

インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=ポール・ライディン

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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