時計の廃材でつくる「チクタクアート」 店を再興させた2代目の挑戦

時計の廃材で作ったトンボ


転機となったのは、2007年。伊藤さんは名古屋にある眼鏡学校に入学。ここで2年間みっちり学び、認定眼鏡士SSS級と、オプトメトリストの資格を取得した。オプトメトリストとは、目の運動機能や感覚機能などを、光学や解剖学、心理学などのさまざまな面から研究する学問であるオプトメトリーをもとに、眼に様々な問題を抱える人たちをサポートする資格だ。

眼鏡学校で習得した技術を活かし、伊藤さんは福岡の眼鏡販売店に就職。4年間勤め上げたのち、満を持して家業を継ぐことを決意した。そのことを父親に報告すると、父親は何も言わず了承してくれたという。

その後、店を継ぐ前には、大阪の職業訓練校に入学して、時計修理技能士の資格も取得。そして2015年、ついに故郷・鳥栖へと帰ってきたのだ。

アップサイクルという考えで再利用


実家へと戻った伊藤さんだが、当時の店の経営は右肩下がり。この状況を打破するためには、どうすればいいか。伊藤さんがまず手をつけたのは、お店の「掃除」だった。

「父が店を始めて40年。店舗と住居が併設されたつくりだったので、仕事とプライベート空間の境がなかったんです。時計やメガネはアクセサリー。だから、おしゃれなものじゃないといけません。でも、当時の店舗をみたら、お客さんはうちじゃ買わないなと思いました」

伊藤さんの父親にとっては、40年かけてつくり上げた自分の城である。もちろん、簡単に事が進むわけはなかった。

「なにしろモノがたくさんあったので。まずは住居部分にあった店のものを捨てて、そこに店にあったものを運び、不要なものはどんどん捨てていきました。父にとっては思い入れのあるものもあったでしょうから、かなり衝突もしましたよ」

古くて使わなくなった店の設備の解体も、自ら行なったという伊藤さん。お店の営業も続けながら、1年ほどかけてセルフリノベーションを行なったのだという。



もちろん、店舗をリニューアルしただけでは、すぐに客足は戻らない。どうしたら同業他店と差別化できるのか。考えを巡らせた末、たどり着いたのがチクタクアートだったという。

「自分にしかできないことを考えていたんです。そんなときにふと浮かんだのが、時計の廃材を使ったアートでした。調べたら、日本ではまだやっている人がいない。それで挑戦してみることにしたんです」

そうはいっても、一からのスタートである。そこに不安はなかったのだろうか。伊藤さんは、あの「空白の3年間」が役に立ったという。

「旅先で、よく子供たちに絵を描いたり、折り紙を折ってやったりしていたんです。絵は得意じゃないといっても、アンパンマンくらいは描けるじゃないですか。でも、ただアンパンマンを描くのではなくて、顔の輪郭をりんごにしたりすると、子供たちはすごく喜ぶんです。そうやって、どうしたら相手が喜ぶのか考えた経験が、チクタクアートの作品づくりに活きているのかもしれませんね」
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文=鍵和田 昇

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