「GW、離れて暮らす高齢の家族のためにできること」在宅医の佐々木医師が語る

患者を往診する佐々木淳医師(左)、小田駿一撮影


その時というのは、突然やってきます。「風邪っぽいな、コロナなのかな」と思って1週間みていたら、急に悪くなって救急車に運ばれる、そういう事例が起きるでしょう。

重症化して助からない可能性が高いけど、可能性にかけてできる限りの治療をするという選択をするのか。あるいは助からないならば、緩和的な治療を受けて、なるべく穏やかに最期を過ごすのか。

ご両親や祖父母が要介護状態だったら、あらかじめ話をしておく必要があると思います。事前に、本人や周囲でなんとなく考えておく、というのが大事です。かかりつけ医師がいれば、話し合いに入ってもらうといいと思います。

二つ目は、いまは心配でも高齢の家族には会いに行かないこと。新型コロナは、感染力がもっとも強いのは、発症する前の段階、発症してすぐのころと言われており、発熱、咳や喉の痛みがなくても、感染させる可能性があります。

2日後に熱が出る、いま無症状のあなたが、一番危険かもしれません。普段は家にいても、時々電車に乗って仕事に行ったり、時々スーパーに買い物に行ったりして、外と接触がある人は感染している可能性があります。

一つ目のような話を、会わずに話すのは難しいでしょう。しかし、本人が普段から人生観や死生観を口にしているなら、必要なのは家族の覚悟です。何かあった時に、口がきけなくなったお父さん、おじいさん、おばあさんの気持ちをちゃんと代弁できるのか。家族は覚悟が必要です。

人工呼吸器を装着するときは、薬で意識レベルを落とします。眠ってしまうので、コミュニケーションはとれません。喉の奥にプラスチックの管が入って、そこから空気を出し入れされます。意識があったら苦痛で耐えられないでしょう。

集中治療室(ICU)に入ってしまったら、死んで骨になって帰ってくるか、生きて元気に帰ってくるまで、会うことはできません。そして高齢者の場合、後者が少数であることは、知っておくべきです。

人間は、年とともに身体が弱りいずれ生命が維持できなくなる生き物です。どこまで治療するのか。医者よりも、本人と周囲が納得できるよう話し合っておくことが大切です。本人がもっと生きたい、家族も生きて欲しいというなら、頑張るという選択肢もありますが、本人も家族も「もう十分に生きた」と思っていて、我々も「治療してもこれ以上よくならない」と思っていたら、治療しないという選択肢もあります。

倫理的に一番正しい選択とは何か。大事なのは、「本人の納得」「家族の納得」、治療ができるか否かの「医学的な適応」、そして治療をした後に本人が幸せになれるのかという「その後の生活の質」の4つを考えることです。「治せるならトライしよう」ではなくて、全員が納得できる結論に至るために、この4つをみんなで話し合い、どの辺で妥協できるのかを考える必要があります。
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構成=成相通子、写真=小田駿一

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