静粛の夜の街に、光と色を求めて。緊急事態宣言下を撮る

Forbes JAPANなどで活躍するフォトグラファーの小田駿一さんが、この歴史的な非常事態宣言下の非日常の東京の街を写真に残したいと、撮影活動を始めました。作品を収録した写真集の制作や飲食店支援のためのクラウドファンディングも実施しています。この連載では撮影した写真たちと、写真家の思いをお伝えしていきます。前回は静まった夜の飲み屋街の「秩序」をテーマに掲載。今回は幻想的な作品をご紹介します。 (編集部)


人間は、光と色に刺激され、癒される。


「なんでフォトグラファーになろうと思ったんですか」

誰ともなく、度々聞かれる質問だ。

「いゃ〜、初めて、ストロボライトを使って撮影した時に、こんな風に撮れるのか? と衝撃を受けたから。才能があるかも!? と勘違いしてしまって」と回答することが多い。ただ、今でもなぜ写真を続けているのかと改めて考えると、時に意図的に、時に偶発的に、照明によって生まれる陰影、色に僕自身が感動し、魅了されてしまっているからだと思う。

いきなり身の上話かよと思われるかもしれないが、実は緊急事態宣言下で、私が撮影をしている根源的な動機は、ここから来ているのかもしれない。外出を自粛し、家にいると、フラットな室内灯の光、白い壁、ブラウンの家具、代わり映えのしない「光と色」につくづく、疲れるのだ。自分を刺激し、癒してくれる「光と色」がないことが、こんなにもストレスなのかと。

北欧インテリアがカラフルな理由に納得。


そんなことを今、流行りのオンライン飲み会で友人に話すと、こんなことを教えてくれた。「だから、北欧だとインテリアがカラフルなんじゃん」と。確かに、マリメッコ然り、北欧のテキスタイル・インテリアにはカラフルで心がワクワクするデザインが多い。真偽のほどは定かではないが、緯度の高い寒冷地では、外に出る機会が少なく、外の世界が荒涼としているからこそ、家の中をカラフルにすることで心のバランスをとっているという話がある。確かに、暖炉に揺らめく炎をじっと見ていると、なんだか心が落ち着いてしまうしなぁ。

緊急事態宣言下で夜の街を撮影していると、如何に報道的な意義があるからと言っても、人のいない寒々しい夜の街を見ていると心が痛んでくる。もしかしたら、見てくれる人も、そう思うんじゃないかなぁとも。そんなことを思いながら、歩いていると、いつもは目にもとめなかった夜の街を彩る照明が素晴らしく、尊くて、美しいものに見えてきた。そうか、私たちは、いつも夜の街に出て、「光と色」に刺激され、癒されていたんだなぁと。

第1回でご紹介したドキュメンタリー的な作品ではなく、今回の寄稿では、夜の街で私を刺激し、癒してくれた照明を、抽象的な「光と色」に落とし込んだ作品を、紹介させてください。この作品は、印象派の絵画よろしくではないですが、夜の街に煌めく照明をみて、私が感じた印象を素直に作品に表現しています。秩序をもって外出を自粛する皆さんを、刺激し、癒す。そんな「光と色」の作品になっていることを願います。

コロナ 非常事態宣言
渋谷・円山町のラブホテル。なんだか刹那的な、青春の甘酸っぱさと楽しかった日々が蘇る。

コロナ 非常事態宣言
繁華街に佇むライトアップされた水槽。心の中にひっそりと潜む水面の様な静かな情熱。

コロナ 非常事態宣言
下町・葛飾区立石にある焼き鳥屋さんから漏れる光。なんだかホッとする。人のいる気配に癒される。

コロナ 非常事態宣言
六本木、休業中のナイトクラブの壁。誰も踊らない街で、光と壁は変わらず踊っていた。

コロナ 非常事態宣言
吉祥寺ハーモニカ横丁。ハーモニカの様に見えるシャッターは、道の先が明るいと教えてくれた。

今後も、緊急事態宣言が解除される予定の5月6日まで撮影活動を続けていきます。定期的にこの場を借りて、作品も寄稿していきますので、ご興味のある方は継続してご覧頂けると嬉しいです。


小田駿一◎1990 年生まれ。福岡県出身。早稲田大学卒業。2012 年に渡英し独学で写真を学ぶ。 2017 年独立。 2019 年に symphonic 所属。人物を中心に、雑誌・広告と幅広く撮影。

文、写真=小田駿一

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