新:歌舞伎町論


Smappa
従業員向けに配信した動画より

店を休みにしても家に居ない。教育動画も見ない。それぞれが自分で得た情報に振り回される。

「お客様を繋ぎとめておくため」という理由でお客様に会いにいく。それはお店に来ていただくという安くはない料金が発生することよりも、ハードルが低い。普段お店にはお客様を全然呼べないようなホストですら、外でお客様候補と思われる人と会える時間を与えてしまう。

ホストたちは外に出かける用の服や装飾品にお金を投じる。その結果、一部の売れっ子ホストだけが充実した家を持っていて、大多数のホストは小さな部屋や寮に住んでいる。長時間居たいと思えるような家を持っている人間は少ない。

そして何より問題だったのが、ちょっと具合が悪くなったら一般病院に行ってしまい、「追い返された」と不安になり、保健所に電話しまくって繋がらず、更に不安になって、直接保健所まで行ってしまったり……

事前に動画で、医療崩壊についてももちろん説明していた。少しでも具合が悪くなったら、行政のガイドラインに従った指示を、冷静に第三者が出来るようにチームを組んで対応を考えるという施策も組んだ。

しかし、微熱が出た従業員たちは、頭ではなく感情で動いてしまった。

理想論は通用しなかった。

「家に居ろ」が通用しないことを痛感した。

たどり着いた先は、害悪を「軽減」すること


そこで私はハームリダクションの方針をとることにした。

ハームリダクションとは普通は薬物依存対策の文脈で使われる言葉で、問題を完全消滅させることを最初から狙うよりも、その害悪(harm)を軽減する(reduction)ことから手をつけようとする考え方のことを指す。

薬物依存は注射針の使い回しによってHIVの拡散と結びついてしまっていたが、薬物売買の取締り強化や「薬物はいけない!」といったキャンペーンだけでは、むしろ依存症者がどんどん地下に潜って行ってしまい、見えないところでより深刻なかたちでHIVを拡散させてしまう。

そこでハームリダクションの考え方では、何と依存症者に対して清潔な注射針を配布するのだ。同様の施策に、路上売春者にコンドームを配布する、というものもある。

外出してしまう従業員を正当化するつもりは毛頭ない。開き直るつもりもない。それはこれまでハームリダクションが採用されてきた依存症の領域で、依存症自体が肯定されていたわけではないのと同じだ。

この状況下でパチンコ店に出かけてしまう人びとを糾弾することは簡単だ。しかし、糾弾によって事態が好転するだろうか?平時から言われていたように、ギャンブルもまた依存症を生むのだとすれば、糾弾された人びとは余計パチンコに行きたくなるだけだろう。

何かを批判して自分の小さな道徳心を満足させて終わっても仕方がない。現実をありのままに見て、その現実にどうやって働きかけるのが最良の結果を生むのかを、謙虚に考えなければいけない。

文=手塚マキ

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