ビジネス

2020.05.12

魔の川、死の谷、ダーウィンの海。技術経営における関門をどう乗り越えるか

Westend61/Getty Images


ビジネスは人間である顧客を対象にして行う活動ですので、数の世界で言えば、取り扱いやすい有理数だけではなく、無理数や虚数といった複雑で難解な数を取り扱うことも必要になってきます。

実世界では、入力する数が存在しないケースも出てきます。そういったときに破綻しないようなシステム構築がビジネスとしては求められます。そういった部分は通常論文では取り扱わない領域であり、これがサイエンスからビジネスにジャンプしようとするときの落とし穴になるわけです。

エンジニアリングの海を渡り切るために


実は、サイエンスとビジネスの間には、エンジニアリングという大きな海があります。大きくて広く、そしてときには荒れたエンジアリングの海を渡り切らないと、サイエンスからビジネスには到達できません。

エンジニアリングは、さまざまなケースを想定して安全性を維持し性能を確保します。いわば、エンジニアリングは実世界の多様性への耐性をビジネスに与える役割と言えると思います。

エンジニアリングでは、正しい操作である正常系での動作にとどまらず、エラーが出る操作の異常系での安全動作も実現しなくてはならず、エンジニアリングにかかわる人たちの腕の見せどころです。昨今、特に注目度を増している自動運転の分野でいえば、想定しない状況でも致命的な事故に至ることを避けるといった安全性への追求といった領域で、エンジニアリングの真価が問われます。

この広くて大きなエンジニアリングの海を渡り切るということは、サイエンスから出発しているスタートアップ企業にとっては、弱点となる1つかもしれません。

エンジニアリングの海を渡り切るには、さまざまな技術分野でのエキスパートによる支援が必要になります。こういった一連のプロセスを、起業して間もないスタートアップ企業の経営資源で対応していくのは容易ではないため、多くのエキスパートを抱えるパートナー企業との協業が必須となるはずです。

スタートアップ企業においては、サイエンスからビジネスへの船頭役となるエンジニアリングを軽視することなく、それを実現するための鍵となる人材を積極的に求めていくことが重要となります。

旧来、日本企業、特に大企業においては、エンジニアリング人材は流動化して来なかった印象があります。その非流動化もかなり変化してきているので、さまざまな領域のエンジニアリング人材が、新たな事業や産業の発展に関与し貢献していくことを期待しています。

また、エンジニアリング人材の流動化に加えて、大企業とスタートアップ企業との協業も加速しており、その成果にも注目しています。前述のとおり、スタートアップ企業は、エンジニアリングの海を渡るために大企業の力を必要としており、大企業も先端的なサイエンスを有するスタートアップ企業の類稀なる先進性を正しく理解しています。

「テック企業」が消滅する時代においては、「エンジニアリング人材の流動化」と「スタートアップ企業と大企業の協業」が、今後の日本の発展、そして日本企業が世界で戦うために、欠かすことのできない要素になるものと考えています。

サイエンスとエンジニアリングとビジネスをしっかりと繋げる、新たな構造への変革が進んでいます。その変革をさらに加速させ、より多くの日本の優れたサイエンスが、ビジネスの岸へ辿り着くようになることを願っています。

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文=茶谷公之

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