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2020.04.29

NASAに「輸送サービス」を売る。宇宙産業「100兆円市場」のロマン|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第4回(前編)

「2つ以上の専門分野を持つことの強み」が言われ始めている昨今、実業 x クリエイティブで成果を結び、新しい才能として各界から注目を集めている人物がいる。上田岳弘。芥川賞、三島由紀夫賞、芸術選奨新人賞の著名三賞をデビューから最短で授賞し、小説「ニムロッド」でアマゾン書籍ランキング総合1位になった彼は、名実ともに現代日本を代表する純文学作家である。

上田は、文学者としての「クリエイティブな発想」を武器に、最先端のIT企業の経営にも取り組む実業家であることでも知られている。

本企画は、上田が「クリエイティブな発想法」を基にして、社会にイノベーションを起こす各界のリーダーと連続対談するものだ。上田は次のように語る。

「実業の世界と文学の世界のいわば『二足のわらじ』を履いている僕と、ビジネス業界の方との対談です。ゲストをお呼びするうえで、3つのカテゴリーを考えています。1つ目はユニコーン候補の伸びゆくスタートアップの方。2つ目は『地方創生』など、規模を抜きにしてエッジの効いた、特筆すべきことをやっていらっしゃる方。3つ目は、いわゆる著名な『ビッグなブランド』を背負って時代の先陣を切ってらっしゃる方、あるいはそういう経験がおありの方。今回は第1のカテゴリーからお越しいただきました」

第3回の対談相手は、世界初の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」を運営する株式会社ispace代表取締役、袴田武史だ。

ispaceは「月を生活圏に。」を企業理念に、独自のランダー(月着陸船)とローバー (月面探査ロボット)を開発する宇宙企業。SpaceX社(ロケット・宇宙船の開発・打ち上げを業務とする米国企業、創業者イーロン・マスク)の「Falcon 9」を使用し、月着陸をミッションとして2021年に、月面探査をミッションとして2023年に打ち上げを行う予定だ。

後編はこちら「宇宙社会インフラ」はゼロベース・スタート。宇宙産業国内トップが描く新・生態系|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第4回


上田:そもそも宇宙事業を「日本で」スタートするって、恐ろしくハードルが高いことですよね。そんな難題になぜ挑戦することになったのか、そもそもなぜ「宇宙」なのか、教えていただけますか。

袴田:そもそもを言えば子どもの頃から宇宙が好きで、やっぱりかっこいい宇宙船が出てくる「スターウォーズ」が始まりでした。あれを作りたいと思ったのが小学生くらいの時でした。


株式会社ispace代表取締役 袴田武史

大学は航空工学系のところに行ったんですが、研究室ではすごく「細かいこと」しかやっていなくて。それはそれで重要で、日本はそういう細かいことが強いんですけれど。実際に宇宙船を作るにはシステムとして「統合」していくことが重要なんですよね。でも日本ではそれをやっているところがなくて、大学院はアメリカに行きました。

当時は国主導の宇宙開発がメインだったんですけど、国が母体だとリスクが全然とれない、失敗できないからスピード感もない。このスピードで進んでも、スターウォーズの宇宙船は作れないと思いました。

そしてこのあたりで、1兆円するような宇宙船を技術的には作れるとしても、誰が買うのか、誰がお金を出すのか、ということも考え始めたんですよね。

実は、設計のコンセプトを考える時点でコストは8割方決まってしまう。つまり設計の初段階、「概念設計」のフェイズで経済的な合理性をしっかりと判断軸に入れるべきじゃないか。「誰が買うのか」を考えたとき、そう思ったんですね。
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文・構成=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥

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