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2020.04.29

NASAに「輸送サービス」を売る。宇宙産業「100兆円市場」のロマン|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第4回(前編)


NASAに「サービス」を売る


袴田:はい、その成功事例が「スペースX」で、国際宇宙ステーションへの物資輸送でNASAと大型契約を結んで成長しています。従来もNASAは、民間企業から技術を買っていた。しかしスペースXからは買っているのは「サービス」なんです。宇宙のサービスを継続的に提供する事業として、商業的に成立しやすい環境を作ることができた。

上田:ある意味、既存技術を活用して広げていくノウハウは、民間の方がうまいのかもしれないですね。

袴田:はい、宇宙技術には最先端のイメージがあると思いますが、実は古いものも多いんです。なぜなら、宇宙で一番重要なのは「信頼性」。失敗しない、何十年も壊れないということが実績になってくるので、実は古い技術なんです。

ロケットの技術も第二次世界大戦の時に生まれて、そこから基本的な原理は変わっていない。宇宙開発の市場は何せ「数が出ない」ので品質が安定しない、成熟しにくい中で、「スペースX」はこれから量産して、技術を加速的に成熟させていこうとしています。

上田:では御社とスペースXとの協業関係について教えていただけますか。

袴田:地球からの「打ち上げ」に必要なロケットにはコストと時間がかかるので、自社開発はやらない、購入すると決めています。「着陸船から先」しか作らない。ところが国が開発して、日本で売られているロケット、「H-ⅡA」、「H-ⅡB」などの打ち上げ費用は百億円とも言われている。その点、スペースXはリーズナブルです。

あとは、われわれは単発ではなく、輸送「サービス」としてスケジュール化をしていきたいので、打ち上げ回数が多いところがいい。その点、スペースXは年間20本以上打ち上げた実績もあるので、安定提供が期待できるんじゃないかと。

上田:スペースXから打ち上げサービスを買って、御社からは輸送サービスを提供するということですね。運用は始まっているんですか?

袴田:月への輸送という意味では、まだ実績はありません。われわれを含めて、商業サービスにしようとやってるのが現状20社くらい。国内ではわれわれだけです。

上田:ですよね。そんな巨大な構想、何社も実装できるはずがないですから。

袴田:NASAが、月面への輸送サービスを民間から買う「CLPS(Commercial Lunar Payload Services)」というプログラムを立ち上げましたが、そこに15社、競争入札できる権利を獲得した。われわれもあるチームと組んで入ることができました。


月着陸船「ランダー」、月探査船「ロンダー」の模型(合わせたミッション名が「HAKUTO-R」である)

何を月に運ぶか?


上田:では、月には具体的にどんなものを輸送するんですか?

袴田:まずは月面探査機器です。計測したり何かを探したり、あるいは、ある機器が実際に動くかどうか事前検証したり。たとえば放射線を測るセンサー、水の存在を確認するセンサー、距離を測るセンサーなどですね。

今、なぜ国の宇宙探査が月に向かっているのかというと、「月の水」を使えるかどうか調査するためです。またNASAなどによって、月を周回する「ゲートウェイ」という新しい国際宇宙ステーションの建設が検討されている。そんな動きの中で、今度は民間企業がそういった「インフラをサポートするためのインフラ」を作り始めると思うんですね、電力や、燃料補給といったもの。するとそこに、また輸送ニーズが出てくるはずです。

上田:従来は、何か実験したい時は自分でロケットを作って打ち上げて、自分で調べて帰ってこなければならなかった。ところが今後は「この探査機をよろしくお願いします」と言えば、月に持っていって探査してくれるということですよね。
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文・構成=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥

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