写真家が撮る緊急事態宣言下の東京の夜。この秩序に、希望と警鐘が併存する

Forbes JAPANをはじめ数々のメディアなどで活躍するフォトグラファーの小田駿一さんが、この歴史的な非常事態宣言下の非日常を写真に残したい、伝えたいと、人がいなくなった夜の街で撮影活動を始めました。気鋭の写真家が切り取る東京の夜のさまざまな瞬間。ジャーナリスティックにも、幻想的にも映ります。この連載では撮影した写真たちと、写真家の思いをお伝えしていきます。(編集部)


フォトグラファーとして何かできることはないのか


新型コロナウイルスが蔓延し、世界が危機的状況に陥るなか、ずっと自問自答してきました。

非常事態宣言以降、撮影も全面的に自粛になる中で、何もできない歯がゆさと無力感を感じていました。ネガティブな情報が溢れ、重苦しい空気が支配する世の中を、写真を通じて少しでも良くしたい。

緊急事態宣言が発出された週末に、できる限りの防護をして、街に出ました。夢中でシャッターを切るなかで、特に印象的だったのが、いつもは人で賑わっている休日夜の飲み屋街に人がいないこと。飲食店が協力し合って、揃って営業を自粛していることでした。この光景は、経済的に逼迫している飲食店の方々の覚悟と、感染拡大防止への前向きな協力の結果だと気付かされました。

荒涼とした有様とは対照的に、飲食店の勇気ある決断が夜の街に佇んでいる。漠然と、今の東京を捉えるのではなく、自分が撮るべきはここにあると感じました。この光景は、早期にこの事態を収束させるための未来に向けた希望です。一方で秩序を守れないと、この状況が一時的なものではなく、慢性的な現実となって続いてしまうという警鐘でもあります。希望と警鐘の入り混じる現実を写真に残し、みなさんにお伝えしたいと思っています。

今回は、そんな思いに共感してくれたForbes JAPAN Webに場を借りて、連載という形で撮影した作品を寄稿させて頂きます。

淡々と、装飾を削ぎ落として、目の前にある現実を捉える


コロナ 小田駿一
静まり返っているからこそ目についたのは、新宿歌舞伎町の路地に意味深に佇む配電盤。

コロナ 小田駿一
老若男女でごった返す休日の渋谷のんべい横丁。今、静寂に包まれ、点々と、赤い提灯が道を照らす。


コロナ 小田駿一
暗い部屋に、赤い外光が差し込む。飲食店が、営業自粛を断行するからこそ、生まれる光景。

コロナ 小田駿一
葛飾区立石。下町らしい居心地の良さは、今は、営業自粛をする優しさに姿を変えて。

コロナ 小田駿一
灯りにつられ、公衆トイレへ。いつもなら気にも留めない花と陰影。

コロナ 小田駿一
人のいない、bar toilet。いつもより、アートの魅力は引き立つけど、やっぱり人がいた方が……

コロナ 小田駿一
グレープフルーツが、お客を待つ。彼が、振る舞われるのはいつになるのかな?

この思いを写真集で伝えたい


撮影を進める中で、メディアを通じて束の間に流れていく情報として、この光景を、現実を伝えるだけでいいのだろうか?と思うようになりました。しっかりとした物理的な形で、この光景を記録し、保管する。そして、みなさまに届けていく。その方が、報道的、記録的な意義を満たせると思い、写真集として出版することを決めました。

写真集においては、秩序ある夜という意である「Night Order」というコンセプトの元に、より警鐘的意味合い・客観的描写的意味合いの強い報道写真作品と、より希望的意味合い・主観的描写的意味合いの強い抽象写真作品を融合させて制作します。歴史的な瞬間である今を捉えながら、その中で忘れてはいけない楽しさや温かさが共存する、ずっと残る1冊に仕上げたいと思っています。

プロダクトとしての完成度を決める写真集のアートディレクション・デザインには、同志であり、気鋭のアートディレクター・グラフィックデザイナーであるカトレヤトウキョウの塩内浩二が担当。

アーティストとしても活動し、伊勢丹等の広告キャンペーンのアートディレクションを務めるなど、アートとファッションの境界を行き来しながら、今までなかったものを生み出すことを得意としています。私が尊敬し、信頼する彼の力を借りて、プロダクトとしての完成度を追求していこうと思っています。

自己満足で終わらない。大切な飲食店も守りたい


しかしながら、果たして、この光景を写真に収め、写真集として社会に発表することだけが自分にできることなのか?それは自分自身のために、自分も何かをやっていると思い込むという自己満足のために、やっているだけではないか? という思いも、心に去来しました。

微力ながら、もう少し何かできることがある。そう思って、本当に自分が大切にしたい飲食店の方々と今回協力してクラウドファンディングも実施することにしました。

クラウドファンディングでは、写真集・写真作品を購入して頂けるだけではなく、このプロジェクトに賛同頂いた、私がとても大切にしている飲食店で使える支援チケットも、合わせて販売しております。

ご興味がある方、共感頂ける方は、是非ご支援いただけると幸いです。高解像度の写真作品はこちらから。


小田駿一◎1990年生まれ。福岡県出身。早稲田大学卒業。2012年に渡英し独学で写真を学ぶ。 2017年独立。 2019年にsymphonic所属。人物を中心に、雑誌・広告と幅広く撮影。WEBサイト

文、写真=小田駿一

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