2000年前、どうやって人はウイルスを防いだか

2000年前、どうやって人はウイルスを防いだか? 冬になると私たちを悩ませる、感染症。今年は新型ウイルスの流行で、注目が集まっている。西洋医学が伝わるずっと前から実践されてきた、東洋医学の考え方に日々の予防のヒントを探る。


1月から新型コロナウイルスによる肺炎のニュースが盛んに報じられている。人類にとって罹患したことのない種類のウイルスだということは誰も免疫をもっていない。つまりかかり易いということだ。当然、感染して重篤な症状が出る可能性がある。特にすでに何かの病気など身体に問題がある場合は要注意だ。

一方、かかっても症状が出ない場合がある。不顕性感染といって、ウイルスが体内で増殖し自身も感染源になりうるが、それほど症状が出ない場合がそれだ。

北半球でも南半球でもインフルエンザや肺炎などの感染症は寒い冬に多い。江戸時代に冬は鬼門とされ、夏に比べ多くの人が亡くなっていたそうだ。しかし、これだけ空調が発達した現代でも同じなのである。統計上、1・2月の死者数はほかの月より多い。気温が低いことに加え、室内外の温度差など人体に負荷がかかる季節なのだろう。冬はほかの季節より身体を大切にするテクニックが必要だ。

東洋医学の健康方法が考え出された2000年以上前、人は気温や湿度、季節の変化や例年との違いをいまより敏感に感じていただろう。現代より鋭い感覚をもった人たちが、四季の変化や食べ物、生活スタイルで健康を維持しようとしたのが東洋医学だ。当時は抗生物質など効果の強い薬もなく、病気にかかれば重篤な結果になることが常識だった。

そのため、病気の初期のサインをいち早くとらえて対応しなければ大変なことになると誰もが知っていた。かつての食生活も不安定で、温度、湿度コントロールができない状況下では、いまより病気が早く進んだはずだ。当時は、風邪も死の病になり得たのである。そんな時代に東洋医学が考えた感染症の防御システムはこうだ。

東洋医学では身体の表面を病気が入らないように「陽気」が守るとされている。陽気は昼間は外に出て身体を守る。太陽が沈んで夜になると身体の表面から奥に入り身体を守らなくなる。だから夜のほうが同じ環境でも風邪をひきやすくなるのだ。例えば、同じ22度の外気温でも、昼は普通に過ごせるが夜は布団をかぶるなど厚着して寝ないと寒く感じる。

また、「陽気」は寒気にあたると身体の中に引っ込んでしまう。その為、寒さにあたると風邪をひくとされている。同じ温度でも特に夜はマフラーや手袋で身体を覆うとウイルスに感染し難くなるのだ。

この予防法は、現代の季節性のインフルエンザや前述の新型コロナウイルスに対しても有用だ。この季節、少しくらい暑くても特に夜は意識的に肌の露出を避け寒気にあたらないようにすることが大切だ。さらに現代医学的には外出から帰ったとき、食事前などに必ず手を洗う。これは外食でも家での食事でも同じことだ。特に、日本が夏の時期でも冬である南半球から多くの旅行者が訪れる今年は、冬以外でも同じように注意してほしい。

桜井竜生◎1965年、奈良市生まれ。国立佐賀医科大学を卒業。元聖マリアンナ医科大学の内科講師のほか、世界各地で診療。著書に『病気にならない生き方 考え方』(PHP文庫)など。

文=桜井竜生 イラストレーション=ichiraku/岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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