マルチに挑戦する日本人書道家が「美」を見出す場所とは?

書家の岡西佑奈さん


──最近はスマートフォンやパソコンを使うことが大半で、書く機会が減っています。普段の生活のなかで、「書く」という行為を取り入れ、自分と向き合うために、何か意識することはあるのでしょうか。

人によって違うとは思いますが、私はパソコンの前では、何かを考えることができないんです。電子機器の前ではついつい呼吸が乱れ、吸うばかりで吐き忘れてしまい、呼吸が浅くなってしまいます。逆に、ペンと紙を前にして座ると閃きます。書くこと、特に書道は呼吸というのがとても大切で、これを止めたら書けません。


中国の天津文化センターでのパフォーマンス作品「雲」

以前、1週間ほど山奥のお寺へ禅の修行に行くことがありました。スマホを預けて、毎朝3時に、鈴音のシャリンシャリンという音で目覚めて、顔だけ洗ってすぐお堂で座禅を組み、お経を読むという日々でした。心も落ち着き、呼吸も整い、電波も気にせず、無になりやすい環境でした。そして修行を終え、心が浄められた状態で東京に戻り、電車の人混みを見たとき、「実はこの環境こそが修行の場ではないのか」とハッとしたことがありました。

さまざまな雑音も入る日常のなかで、自分の心の声が聞くことができたら、一生、幸せだなあと感じました。山に籠ったり、お寺で座禅を組んだり、修行する環境で、クリーンになるのは当たり前です。それより日常のなかで、如何に自分と向き合い、心を浄化させることができるかが、何よりの修行ではないかと思っています。

私が人生で大切にしていることは、自分が美しいと思うものを美しいと感じることです。自分が大切にしているコーヒーメーカーや時計、車でも何でもいいのです。私は夕焼けが大好きで、毎日ずっと見ていたいなと思います。しかし、忙しくて心が塞がれ、それに美しさを感じないときは、自分に大きな問題があるのではないかと考えます。

美しいと思うものを美しいと思い続けることができる心が、とても大切だと思います。そんな日常を、これからも大事していきたいです。


岡西佑奈(おかにし・ゆうな)◎1985年、東京生まれ。6歳から書を始め、栃木春光に師事。高校在学中に師範免許を取得。水墨画は関澤玉誠に師事。書家として文字に命を吹き込み、独自のリズム感や心象を表現。自然界の「曲線美」を書技によって追求し、創作活動を行う。近年は、墨象や絵画なども手がけ、国内外で個展を開催。2019年6月には、天津文化センターでのパフォーマンス作品が中国天津美術館に収蔵された。近々、ニューヨークのリンカーンセンターで個展&ライブパフォーマンスを行う予定も。昨年11月、初の作品集「線の美」(青幻舎)を刊行。この3月から、世界中の人たちの希望の言葉を書にする「希望の書」を、自身のSNSで始め、話題を集めている。https://okanishi-yuuna.com

インタビュー=三宅紘一郎 校正=鈴木広大 撮影=藤井さおり

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