ビジネス

2020.04.30

日本発のビジネスモデルをどう現地化させたのか クラウド名刺管理サービス「Sansan」の海外戦略

Sansan人事部兼Sansan Global 福田一紀(写真右)と吉田健太朗(左)(撮影:原哲也)

日本人が海外での活躍を期待された「グローバル化1.0」の時代から、いまや国内でも外国人との共存が求められる「グローバル化2.0」の時代へとフェーズは進んでいる。本連載「『グローバル化2.0』時代に活躍する」では、この変化のなかで、私たちはどう対処していくべきなのかを考えていく。

社内の名刺を一括管理することで、企業の成長を後押しするクラウド名刺管理サービスを提供するSansan。世の中がペーパーレス化に向かうなかで、紙の名刺はアウト・オブ・デートな存在になるかもしれない。そんな完全デジタル化の時代を前にして、同社はすでに新しい道を歩み出している。そのひとつが事業のグローバル化だ。

現在、シンガポールを中心に同社サービスの海外展開に取り組み、現地法人の管理・運営にも携わる人事部の福田一紀氏に、Sansanがどのようにグローバル進出を進めているのか聞いた(緊急事態宣言発出前に取材)。


──Sansanは「名刺管理サービス」のイメージが強く、どちらかというとアナログなサービスという印象がありますが、名刺はあくまでもデータにアクセスするための入り口と考えていいのでしょうか?

そうですね。私たちも紙の名刺がいつまでも続くとは思っておらず、むしろ無くしたいと思っています。ただし、もうしばらくは紙の名刺が存在し続けるなかで、Sansanがやれることはまだまだあると思っています。

法人向けサービスである「Sansan」では、オンラインでの名刺交換が近々可能になります。また、個人向けサービスの「Eight」も展開しているのですが、こちらではQRコードでの名刺交換含め、完全デジタルへの移行も見据えての準備をしています。

──福田さんは、総合商社で18年間働いた後、Sansanに転職している。何かきっかけはあったのですか?

元々、世界を舞台にした仕事をするのが夢でした。現在の会社では、法人向けクラウド名刺管理サービスであるSansanの海外展開と、本社でも外国籍の社員が増えているので、スタッフが安心して業務に当たれるように、英語化対応推進や各種制度設計の構築にも取り組んでいます。

──海外展開ですが、いまはシンガポールに拠点を設けてグローバル事業を展開されていますね。

2015年に、シンガポール法人を設立しました。現地でのマーケット調査や、さまざまな取り組みを経て、現在では日本で行っていることに近い法人営業を中心に事業を行っています。日系企業のシンガポール法人をはじめ、現地のローカル企業もクライアントに抱えています。

海外では名刺のデザインも違う


──シンガポールでも「名刺管理サービス」のニーズはあるのですか?

実は「名刺情報をデータ化する」だけでしたら、個人向けにサービスやアプリは国内外を問わず多数存在します。しかし、Sansanは「人脈を共有して会社の資産にすること」が発想の根本にあり、法人向けにサービスを提供しています。

日本で最初にサービスを開始したときも同じだったのですが、このような概念自体がシンガポールにも存在していなかったので、ニーズがあるかというよりは、新たに市場を創出していくということになります。

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──事業のグローバル展開を進めるうえで、どんな難しさがありますか。

課題はたくさんあります。ひとつは技術的な課題です。これはシンガポールに限った話ではなく、日本でも同じなのですが、「名刺のデータ化」は思っている以上に難しい作業です。さまざまなデザインの名刺があるなかで、情報をキャプチャーして、精度高くデータ化するには特別なノウハウが求められます。

当社では、機械学習の力も借りながら高い読み込み精度を誇っています。これを確実なものにするため、読み込みの最終工程では一部人間の力も使っていますが、この先自動化の精度をさらに高めるべく、DSOC(R&D組織)が日々改善に取り組んでいます。

シンガポールでは、名刺のデザイン自体も日本とは異なりますので、当初は「住所の番地」なのか「企業のライセンスナンバー」なのかわからず、私たちも戸惑うようなこともありましたが、情報の流入が増えてきて、確実に読み込みの精度は改善してきています。
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文=吉田健太朗 写真=原 哲也

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