この事件、何かがおかしい。そして「障害」の可能性に気づいた|#供述弱者を知る

「#供述弱者を知る」サムネイルデザイン=高田尚弥


西山美香さん
編集者との面会で、資料に目をやる西山美香さん =Christian Tartarello撮影

彼女自身が何度も「ずっと友達ができなかったから人間関係をどうつくっていいのか分からず、当時は嘘をついて人の関心を引くことが当たり前になっていた」と私たちに話したのは、逮捕から13年後に出所してからのことだ。

あまりにも衝撃的な虚言癖は、事件での虚偽自白(実際は「チューブを外した」とうそをついただけだが、刑事が供述調書に「殺した」と書いた)との関連性を強く印象づけられるのに十分なインパクトがあった。

秦「同僚たちにうそをついていたから、殺した、という嘘をついた、とは、もちろん言えないけれど、でも、嘘をつくハードルがめちゃめちゃ低い人だった、ということは、間違いなく言えるよね」

角「それは言えると思います。あと、やっぱりコミュニケーションが苦手、というか、本人が言葉を取り違えて話していることもあるみたいなんですよ」

秦「どういうこと?」

角「否認しているのに、法廷の尋問で『殺した』と言ってる場面もあるんです」

秦「法廷の尋問?」

角「そうなんです。控訴審で法廷であった弁護人とのやりとりが、そんな感じになってることを再審請求書で指摘しているんですよ」

法廷でも混乱する弁護人とのやりとり


パソコンのデータでその部分を見せてもらうと、確かに質問に対する西山さんの答え方が混乱していた。請求書には「控訴審第1回公判被告人質問速記録」(2006年)が以下のように引用されていた。西山さんの弁護人とのやりとりを一問一答で紹介するので、注意深く読んでいただきたい。

弁護人 「(検事調べで)ただ、最後のほうは、A刑事に言っているように『わざと外しました』と言ったね」

西山さん「言いました」

弁護人 「そういうふうに変わったのはどうしてかな?」

西山さん「正直に言ったらいいと思いました」

弁護人 「正直に......じゃあやってるわけか?」

西山さん「やってないんですけど、A刑事に言ってるように言ったら分かってもらえると思って言いました」

弁護人 「何を分かってもらえると思ったの?」

西山さん「私のことを」

弁護人「それで分かってもらえる内容というのは、私が(呼吸器の)線を抜きましたと。要は、殺しましたということは分かってくれるかもしれないけど、それ以上どういうことが分かってもらえると思ったのかな?」

西山さん「私の気持ち」

弁護人 「どんな気持ち?」

西山さん「Tさんを......泣く泣く殺してしまったということです」

弁護人 「じゃあ殺したの」

西山さん「殺してません」

弁護人 「殺してもいないのに、泣く泣く殺してしまったと思ってたの?」

西山さん「思ってません」

弁護人 「じゃあ、その気持ちというのがよく分からないけど」

西山さん「私もよく分からないです」
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文=秦融

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