Prottの苦悩、組織崩壊……そしてStrapへ
多くの会社がフルリモートを余儀なくされたことを契機に開発されたようなサービスに思えるが、グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史によれば、「Strap事業の構想は2018年末くらいから持っていたもの」だという。
いかにして、Strapの事業アイデアに行き着いたのか──その背景にあったのが、プロトタイピングツール「Prott」の苦悩だった。
Prottはグッドパッチが創業3年目のタイミングで開発した、初の自社プロダクト。ノートに書いたワイヤーフレームのスケッチやデザインデータをアップロードし、スクリーンとスクリーンを繋ぐだけで、非エンジニアでも簡単にプロトタイプを作成できることから、スタートアップや大企業など幅広い企業に活用されていた。
「2014年にリリースし、それから約3年弱で急速に成長していました。成長率で言えば、毎年倍々に伸びていく。それくらいの勢いでした。会社としてProttにかなり投資をしていて、チームの人数も30人ほどいましたね」(土屋)
そんなタイミングで、アドビシステムズがプロトタイピング作成ツール「AdobeXD」をリリース。それを機にProttの雲行きが怪しくなり、一気に成長が鈍化したという。
「当時、追加で“Version2”というProttの強化版を開発しようとしていたのですが、開発が想像以上に長期化したことに加え、AdobeXDの登場でこれ以上プロトタイピングツールに投資しても回収が見込めないのではないかと思い、Prottチームを縮小したんです」(土屋)
土屋が書いたnoteに詳しいが、当時グッドパッチは組織崩壊の状況にあった。同じタイミングでPrott“Version2”開発の長期化、そしてチームの縮小によりプロダクトDiv.チームの空気にも暗い影を落とした。
とはいえ、会社は歩みを進めていかなければならない。土屋は大きな選択を迫られる。
「当然ですが、今後Prottチームをどうしていくのか、という話になりました。このままProttの開発を続けていくのか、それとも新しいプロダクトを開発するのか。弊社はデザイナー特化型キャリア支援サービス『ReDesigner』もやっていますが、デザイン会社としてプロダクトを開発しているのは会社のアイデンティティとして、すごく重要だと思っているんです。Prottで苦悩したこと、Prottでカバーしきれなかったマーケット範囲、Goodpatchが持っている強みを掛け合わせて分析した結果、ビジュアルコラボレーションツールにはチャンスがあるのではないか、と思いました」(土屋)
アイデアの着想から、約1年でサービスを開発。土屋によれば、今回Strapの開発に携わったメンバーの多くは、Prottの苦悩を乗り越えたメンバーたちだという。
「Prottの無念を晴らすというわけではないですが……(笑)。Prottの苦悩、そして組織崩壊を経験してもグッドパッチを辞めなかったメンバーたちがStrapの開発に携わってくれているので、個人的にはとても思い入れの強いサービスになっています」(土屋)