ビジネス

2020.04.23

デザインは人を幸せにできる。サントリー「天然水スパークリング」がリニューアルに込めた思い

サントリーコミュニケーションズの山岸彩乃氏

※この記事は、2020年3月にXDで公開されたものを転載しております。

「私たちの商品は、お客様に何秒で選ばれていると思いますか?」

そう問いかけるのは、2018年にリニューアルした「サントリー天然水スパークリング」のデザインを担当した、サントリーコミュニケーションズの山岸彩乃氏。

答えは、およそ2秒だ。この2秒で、生活者は飲みたい商品を無意識のうちに手に取るという。デザイナーは、この短い時間で商品に込められたメッセージを伝えるため、細部にわたって細かな工夫を施しているわけだが、その伝え方は様々だ。

リニューアル前のサントリー天然水スパークリングは、無糖炭酸水市場が右肩上がりに成長する一方で、売り上げがほぼ横ばいの状況が続いていた。そこで、2016年にデザインの大幅なリニューアルを計画。リニューアル後、2018年の販売数量は前年比で2倍以上となり、フレーバー炭酸市場で年間売り上げ第1位(インテージSRI調べ)となった。

どのようなプロセスを経て、顧客が手に取りたくなるデザインが生まれたのか。天然水スパークリングの新たなデザインが生まれる経緯や山岸氏がアイデアを育むために大切にしていること、デザインによって届けたい顧客体験について伺った。


既存ブランドのイメージを超える、抜本的なリニューアル


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リニューアル前(左)とリニューアル後(中央)、最新のデザイン(右)の商品比較

やわらかい水色の空、美しくそびえ立つ雪山、そして、のびのびと羽ばたく一羽の鳥。“サントリー天然水”と聞くと、自然にあふれたのどかなデザインが目に浮かぶだろう。

リニューアル前のサントリー天然水スパークリングも同様に、天然水ラベルのデザインが踏襲されていた。しかし、それがマイナスに働いてしまったのでは、と山岸氏は振り返る。

山岸氏「天然水本体のおだやかな世界観がパッケージに使われていたことで、お客様に炭酸が弱いイメージを与えてしまっていました。炭酸水を購入される方は、強くて刺激のある炭酸を求めています。ガス圧は他社と変わらないのに、弱く見えてしまっては手に取ってもらえません。そのため、天然水の世界観の中でいかに刺激を伝えるかがリニューアルのテーマとなりました」

やわらかいイメージから「刺激が伝わる」デザインへ。山岸氏は、天然水スパークリングを「“日々の出来事を切り替えるスイッチ”としてリニューアルできないか」と考えた。

山岸氏「これまでの無糖炭酸水は、ストレス発散やダイエットのために、とにかく刺激だけが求められていました。企業からのコミュニケーションを見てもストレスを吹き飛ばすような、ストイックな世界観ばかりでした。もちろんそういった側面も大事なのですが、私たちがやりたいことは、炭酸水を飲んで爽快な気分になり、自分が前に進んでいくためのポジティブなスイッチになることでした。

朝起きて1日が始まるとき、家の掃除をする前、プレゼン資料を作るとき。日々の生活の中でポジティブな気持ちに切り替えて、いいスタートを切るためのパートナーと思ってもらえるような存在になること。それがベストだと考えたんです」

やわらかい印象だったラベルは爽快感を表現したデザインに一新。メインの山は氷山へ、のどかな水色の空は氷山に映えるシルバーを含んだ青へと変化を遂げた。炭酸で感じられる刺激を、「自然のエナジティックな部分を出すことで伝えられるよう工夫した」という。
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文/もりや みほ 編集/庄司智昭 撮影/伊藤圭

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