実際に飲む時に五感で刺激が感じられるよう、ボトルのデザインにもこだわった。たとえば、ボトルデザインは3Dプリンタを使い、実際の持ちやすさ、握りやすさなどをメンバーや顧客に試してもらって議論。ボトル上部にくびれのある今の形へと決まったという。
山岸氏「炭酸水はペットボトルから直接飲む人がほとんどです。直飲み需要に適したボトルの形状を考えた時に、インスピレーションを得たのがビール瓶でした。ビール瓶を持ち上げて、顎をあげて飲む様子は、爽快な気分をもたらすシーンに近い気がしたんです」
キャップを勢いよく開けると、ポンっと気持ちの良い音が出る仕組みにもなっている。細部まで気分のスイッチができる仕組みが設計されており、フレーバー炭酸市場で年間売り上げ第1位になった後に行ったアンケートでもこの点が評価されたという。
ボトル上部にくびれ部分に丸みがあることで、傾けた時に炭酸が勢いよく口の中へ入り、刺激が味わいやすくなった。
スノーピークとの共同開発で引き出された天然水の強み
また、商品のリニューアルを、アウトドアブランドのスノーピークと共同で行ったことも特徴的だ。プロジェクトが発足した当初、事業部ではスノーピークのロゴをラベルに入れる程度を想定していたそうだ。しかし、それを聞いた山岸氏は「それだけでは面白くない、もったいない」と考え、事業部に自らスローガンを提案した。
山岸氏「単なるコラボレーション商品の開発だけに留めたくないなと純粋に思ったんです。完全に異業種であるスノーピークさんと取り組みをすると聞いた時、私たちだけでは創れない未来を創れるんじゃないかなと」
そうして生まれたのが、「はるか遠くの未来を見つめて、人と自然のつながりをあたらしく」という意味を込めたスローガン「山のむこう」だ。商品を共同開発するだけでなく、“自然と人間の良い関係”を作るため、キャンプ体験や水に関する教育なども行うことが決まった。
キャンプ用品と炭酸飲料では商品のジャンルが異なるが、コラボレーションの意義はどのような点にあったのだろうか。山岸氏は「扱う商品は違いますが、考えていくうちに私たちが見たい景色が同じであることに気づきました」と話す。
山岸氏「スノーピークのミッションに『人間性の回復』があります。文明が進化すると、自然とともに生きていた人間本来のリズムが低下する。それを回復するためにキャンプ事業を行っているという話を聞いたんです。自然由来の天然水ブランドを届け、自然と人とをつなげる役割を担う私たちと、実現したいことが実は一緒なのではないかと考えました」
天然水ブランドは、南アルプスの山々から採取される水源の水を使用して作られている。山に届いた水が地下へ沁み、いくつもの地層で綺麗に濾過され、天然ミネラルが溶け込み、20年以上かけて水が作られ、サントリー天然水へと姿を変える。
山岸氏「当時の事業部長が『人間性が低下した都市で暮らすお客様に天然水は飲まれているのではないか』と言っていたのですが、その話を聞いた時にすごく腹落ちしたんです。私たちが持っている天然水ブランドは、ただ水源で組み上げた安心・安全のおいしい天然水をお届けしているだけではない。身近に自然を感じて、お客さんをほっとさせたり、リフレッシュさせることが自分たちにしか提供できない価値なんだと気づきました」
飲料という商品を通して自然に向き合う機会を作るサントリーと、キャンプという体験を通して自然と向き合う機会を作るスノーピーク。その両社のミッションは「自然と人をつなぐこと」に決まり、「山のむこう」というスローガンも生まれた。