伊藤健太郎x石橋静河「今、役者としてできること」#30UNDER30

守屋 美佳

一方で石橋は、赤名リカに共感できる点が多いからこそ、理解に苦しんだシーンも多かったと語った。

リカと同じく、石橋も東京都出身。15歳から海外のバレエスクールへ留学していた経験もあり、元バックパッカーだったリカと同じく国際感覚も持ち合わせる。そして、自身もリカと同じく「感情の起伏は大きい方」だという。


石橋静河

「赤名リカという女性は、迷いのない強い女性に見えると思います。でも本当は人一倍悩んでいるし、心から伝えたいと思っていることに限って上手に言葉にすることができないタイプ。カンチと一緒にいたいのに、笑顔で『またね』なんて言ってしまうシーンには、『どうして素直にならないの!』ともどかしく思っていました(笑)」

二人が収録を終えたのは、昨年9月末のこと。4月29日の放映開始のタイミングで、これほど世界が変化してしまうとは、誰も想像をしていなかった。

今、伊藤と石橋は役者として、改めて自身の仕事の重みを感じているという。仕事を切り離しても大の映画ファンだという伊藤は、こう胸の内を語った。

「誰もが以前のように外出することができなくなりましたよね。僕も、家にいる時間がとても長くなりました。こんな時に救われるのが、大好きな映画を観ている時間なんです。窮屈な毎日を過ごしている方々に、役者として、ワクワクできる時間を提供できる側でもあると思うと、自分の仕事の大切さを改めて感じます」

現代版では、多くの情報が溢れているからこそ、カンチとリカは互いの知らなくてもいいことまで知ってしまうこともあったという石橋も、同じ思いを抱いている。

「情報にすぐに手が届くことは便利である一方、この情報の多さに、私も含めて多くの人が振り回されているように感じています。特に今は、暗いニュースに飲み込まれてしまいそうになりますよね。そんな時に必要とされているのが、何かに没頭できる時間ではないでしょうか」

映画やドラマを観ている時や、本を読んでいる時、時間の経過を忘れてしまうことがある。そんな体験を、役者として多くの人に届けたいのだという。

「カンチとリカはこれからどうなるんだろう、って観ている人を夢中にさせたい。人を引き込む力のある作品を観ている時って、周りで起きていることを忘れてしまいますよね。そんな、何かに没頭できる時間を1日に少しでも持つことがきたら、心も穏やかになるのではと思います。そして、なかなか人に会えない時だからこそ、このドラマが、誰かと真剣に向かい合うことの難しさや楽しさを考え直すきっかけにもなると思うんです。そんな機会を私たちが提供できるのなら、役者としてこれ以上嬉しいことは他にありません」


いとう・けんたろう◎1997年、東京生まれ。2014年に役者デビュー。出演作に『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』、NHK連続テレビ小説『スカーレット』など。

いしばし・しずか◎1994年、東京生まれ。バレエ留学を経て初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で数々の映画賞新人賞を受賞、ドラマや映画、舞台作品で活躍中。

昨年ふたりが選出された、次世代を担う30歳未満の30人にスポットライトを当てるアワード「30 UNDER 30 JAPAN」を今年も開催。現在特設サイト上では、受賞候補者を公募でも受付中。

写真=小田駿一 リタッチ=上住真司 文=守屋美佳

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