ソーシャル・ディスタンスに失敗しても、居場所はいつか手に入る

左:レティシア・ドッシュ、右:レオノール・セライユ監督(Dominique Charriau/WireImage)


ところでこの作品には、赤と青が様々な場面で印象的に使われている。

ひんやりと青味がかったパリの街を放浪するポーラの、濃い赤のロングコート。赤褐色のドアの前を横切るポーラの青いスカーフ。安ホテルのベッドの赤い毛布。犬猫病院の水色の壁に職員の上着の濃い青。ポーラの両耳から下がった暗赤色のイヤリング。面接を受けるポーラのロイヤルブルーのセーター。明るい空色の水着。プールの更衣室の白と青のモザイクタイル。ウスマンの家の真っ青な戸棚。夜のセーヌ川の深い紺色。

ヨーロッパの王家の紋章によく使われてきたと言われる赤と青は、パリの白い街並みにも映える。その色を効果的に配した画面の構図にも、フォトグラフィックな美しさがある。そしてポーラの瞳がオッドアイであるように、赤と青という対立的な色彩は、不器用さと奔放さを合わせ持つ彼女のユニークなキャラクターを示している。

最後に残った関係性とは


さて、行き詰まったポーラは、自分を偽ってなんとかサバイバルしようとする。

一人目は、ポーラを大昔の友人だと人違いをした若い女性。懐かしがる彼女のノリに合わせ、頑張って何とかその友人を演じ、気前の良い相手からお金を借りる。

二人目は、住み込みのベビーシッターとして彼女を雇ったシングルマザー。大学生で子供好きということにしたのはいいものの、娘は全く懐かなず、彼女の歓心を得ようとおどけて滑る場面が痛々しい。

三人目は、元彼のフォトグラファー。「私は順調にやってるわ」と留守電に強がった台詞を残すが、実は綱渡り生活である。

やっとデパートの下着売り場のバイトが決まり、頑張って働き出すポーラ。彼女にウスマンが投げかけた「君は動物みたいだ。野生の子ザル」という台詞は、彼女の本質を捉えて秀逸だ。

滞っていた人生がやっとスムーズに流れ始めたと思った矢先、偽りの人間関係は一気に破局を迎える。かろうじて積み重ねてきたそれらがガラガラと壊れていく描写は、いっそ爽快で、ドラマは安易な解決や着地点を示さないまま、ほのかな解放感のうちに幕を閉じる。最後に残った関係性が、彼女に一番似合う生き方を暗示しているようだ。

連載:シネマの女は最後に微笑む
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文=大野 左紀子

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