パリの一ツ星レストラン、Le Quinzieme(ル・キャンジエム)をはじめ、いくつかのお店を持つフレンチシェフであり、スターパティシエとしても名を馳せるシリル・リニャックもその一人だ。毎晩午後6時45分になると、Instagramで視聴者とフォロワーに、おうちごはんやおやつをつくる様子をレシピ付きで配信している。
自宅の素敵なキッチンから、リラックスした表情の彼が楽しそうにパスタをつくったり、ガトーショコラを焼いたりしている様子は、そのイケメンさも相まって(笑)、見ているだけでも幸せな気分になる。視聴者から質問がくると、シリルはチャットで丁寧に答えてもくれる。
ライブ後には、実際に世界中で彼のレシピを料理した人たちから届く、いわゆる「つくれぽ」のようなものも公開している。それを読むと、料理界の憧れのスターであるシリルと、140万以上のフォロワーたちとの一体感を覚える。これまでのクローズドで、ちょっと排他的ともいえるコミュニティとは違う、物理的に離れていても、それ以上に心と心が強くつながっている、ふんわりと大きく包み込む広い空間だ。
イタリアの三ツ星レストランOsteria Francescana(オステリア・フランチェスカーナ)のオーナーシェフ、マッシモ・ボットゥーラのInstagramはとにかく陽気だ。こちらもフォロワーは130万人以上だが、彼は誰かのために自分のレシピを教えるというより、誰よりも自分が一番無邪気に料理を楽しんでいる様子を配信しており、映像を撮影している女性との掛け合いも面白い。
こんなふうに、ヨーロッパでは、有名シェフやパティシエはもちろん、食に精通するジャーナリストも、自分のレシピ本紹介を兼ねて自宅でお菓子を焼く様子など、積極的に動画を配信している。オンライン上とはいえ、遠くて訪れることが叶わないような有名シェフと一緒に料理をしたり、彼らの普段着姿で料理する姿を間近で観たりできるなんて、今更だがテクノロジーの発展は本当にめざましい(私はキッチンの道具マニアなので、彼らが自宅では安いナイフとかフライパンとか、特別プロ仕様ではない、手頃な道具を使っていることにも驚いている。そんな発見もまた、楽しみのひとつだ)。
こうした海外の流れに続き、日本のシェフたちも、少しずつだが動画配信を始めるようになってきた。先日、南フランスのニースに住むシェフ、松嶋啓介さんがオンライン会議システムを使った料理教室を開催してくれた。
参加者は松嶋さんをよく知る、料理好きや食いしん坊の15名。各々キッチンにカメラを置き、一緒にチーズリゾットをつくった。
シンプルなお料理だけに、玉ねぎの炒め方やスープの火入れの方法などをライブで教えてもらうことができたのは、とても特別感があって満足度も高かった。ある参加者は、自分がライブに参加しながらつくったリゾットを、幼い息子が美味しそうに食べている様子をSNSにアップしていた。参加者全員の楽しみ方はそれぞれ違っても、純粋に楽しそうな笑顔が画面越しにつながる幸せなひとときだった。
親子で料理したり、家族の時間を大事にする人たちも増えている