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写真右から、クオン社長・武田隆、仙台市長・郡和子、インパクト・ファウンデーション・ジャパン 代表理事・竹川隆司

※このインタビューは、3月19日に新型コロナウィルス感染症予防対策を施し、参加人数を限定したうえで行われました。

仕事、外食、買い物、レジャー……私たちの生活は、多くの「場」と、そこで生まれる人々のつながりに依存している。しかし、ひとたび災害やパンデミック等が起きれば、容易に「場」は崩壊し、人々のつながりも失われる。デジタル化の進行やリモートワークの広がりにより、私たちと「場」の関わり方そのものも再考を求められる時代となった。

私たちにとって最も身近なコミュニティである「自治体」も、その例外ではない。ニューノーマルを見据え、オンラインを舞台に、自治体と市民が持続的なつながりを育むための取り組みが重要となっている。


「仙台・東北で暮らす人々が豊かさを実感できる未来」の実現へ向けて持続的経済成長を目指す仙台市。起業支援への取り組みは、開業率が政令指定都市のなかで2位になるなど、着実に成果を上げ始めている。その背景には、2019年に同市が打ち出した「仙台市経済成長戦略2023」がある。

中枢都市として東北をリードしていくための7つの柱で構成される同戦略において、とりわけ特徴的であるのが社会起業家をはじめとした多彩な起業家の成長を後押しする「東北の豊かな未来を創る『ソーシャル・イノベーション都市・仙台』」の項目と言えるだろう。そこには持続的な経済成長へ向けて起業支援を新たなステージへ押し上げるキーとなる施策がある。これこそが「場の崩壊」に対応するためのヒントだ。

仙台市長の郡和子をはじめ、次世代グローバルリーダー育成を行うインパクト・ファウンデーション・ジャパン 代表理事の竹川隆司、ファンコミュニティを運営するクオン社長の武田隆が、それぞれの立場から、起業家の裾野を広げる秘策として取り組む“オンライン・コミュニティ”の可能性について語ってくれた。



「仙台市経済成長戦略2023」狙いと意義


人口減少、高齢化、ICTの進展、グローバル化と、世の中はめまぐるしい変化への対応が迫られている。そこに課題を抱えているのは仙台市も同じ。同市の経済が成長し続けるためには、地元企業・地元産業の競争力向上が不可欠と言えるだろう。そこで同市では、こうした変化に的確に対応し、地域経済を持続的に発展させるため、「仙台市経済成長戦略2023」を打ち出した。



郡和子仙台市長(以下:郡)はこれら7つのプロジェクトを「仙台市の未来に向けた羅針盤」と位置付け、社会的課題解決と経済成長の両立を行政として後押ししていく構えだ。

「東北は課題先進地域。住民は強い危機感をもっています。その分、全国や世界に先立って課題解決ができるのです。本市の経済成長の効果を東北全体に波及させていくことが、東北の中枢都市としての重要な役割と考えています」


仙台市長・郡和子

仙台の社会起業家がイノベーションを起こす環境を整える


前述した「ソーシャル・イノベーション都市・仙台」の取り組みでは、早速、効果が表れ始めている。仙台・東北の課題解決に取り組む起業家を集中支援することで、起業マインドが醸成されつつあるのだ。現在、仙台市の開業率は政令指定都市で2位にまで上昇している。

仙台市の起業家は、「利他的なマインド」をもっていると郡は言う。震災を経験したことで、周囲とのつながりの重要性を再確認し、世界観や死生観が変わったという起業家は多い。彼らは、今度は自分が誰かを助ける番と考え、社会貢献的起業を目指すというのだ。

「震災後の東北は、もはや経済成長だけでは豊かさを実感できないことを知っています。経済成長と社会課題の解決を両立させることで、初めて持続可能な社会は実現するのです」

仙台市とタッグを組み、社会起業家の育成・支援を行っているのがインパクト・ファウンデーション・ジャパンだ。代表理事を務める竹川隆司(以下:竹川)らが、仙台市主催の社会起業家アクセラレータープログラムの企画・運営などを行っている。

チャレンジするマインドの育成、アイデアやビジネスチャンス創出のためのきっかけの場づくり、オフィスや資金提供、人材紹介など、ソフトとハードの両面から支援をしている頼もしい存在だ。

社会起業家の育成・支援を行うプロジェクトのキーコンセプトは「ココロイキルヒト」。プロジェクトの成否のカギを握るコンセプトの完成までには2年の歳月を要したという。「⼼意気(チャレンジ)」「⼼⽣きる(感動する)」など、複数の意味を有する東北の社会起業家を指したオリジナルの言葉だ。

「慈善事業でもなく利益追求事業でもない。熱い心や思いをもって起業している人がこの地には多い。社会起業家として活動しようとする彼らを言い表す言葉が、このココロイキルヒトなのです」


インパクト・ファウンデーション・ジャパン 代表理事・竹川隆司

ハーバード・ビジネス・スクールで学びMBAを取得した竹川は、リーダーの要件が「Knowing(知識)」から「Doing(実践)」に移行し、いまは「Being(生き方)」が必要な時代と語る。実際に、毎年東北を訪れるハーバード・ビジネス・スクールの学生は、東北の地の“思いの強さ”に驚くと言う。利益のためだけではなく、心から動いてビジネスを行う人を目の当たりにするシーンが、欧米諸国では意外と少ないからだ。

ここ3年以上にわたり、仙台市の社会起業家育成に携わってきたインパクト・ファウンデーション・ジャパンは、現在、新たな課題に直面している。インパクト・ファウンデーション・ジャパンが中心となってさまざまなイベントを実施し、起業家たちの濃厚なコミュニティはでき上がりつつある。しかし、コミュニティのさらなる拡大のためには、それ以外の人たちへのアプローチにも力を入れていかなければならない。裾野をどう広げていくかが問われているのだ。

4カ月で9,000人以上ものファンが集ったオンライン・コミュニティ


「ココロイキルヒト」をつなぐプロジェクトはそのソリューションとして、すでに始動している。「東北でなにかをしたい、やってみたい」そんな思いをもつすべての人を応援するオンライン・コミュニティサイト『東北 ココロイキルヒト コミュニティ』もそのひとつとして、仙台の社会起業家と市民とをつなげ始めている。

「サイトはこれまでリアルの交流の場では出会えなかった人同士の出会いの場として、社会起業家たちの裾野を広げてくれるだろう」と郡も期待を寄せる。

アクセスしてみると、東北や仙台に関する身近な話題、ご当地情報やニュースなどをテーマに、地域の人同士が気軽に会話を楽しんでいる。サイトが立ち上がったのは2020年1月30日。累計登録人数は9,003名、累計発言数は10,436件、コミュニティ内でのリアクションを表す累計拍手数は36,175件(2020年5月31日時点)と、まだ4カ月ではあるが、一気にファンが集い活気溢れる交流の場となっている。「これからの仙台に必要なもの」など活発な意見交換が行われ、温かくかつ前向きなコミュニケーションが展開されていることがすぐにわかる。上々のスタートを切ったサイトの運営を、竹川はこう振り返る。

「オンライン・コミュニティのプロが入ってくれたことで、起業家と地域の人達がうまく交流でき始めている。我々が運用していても、最初に『美味しいもの』など話しやすい質問で場を温め、『これからのチャレンジ』などの深い質問に徐々に移行していくというアイデアはなかった」

オンライン・コミュニティのプロとは、ファンコミュニティサイト構築・運用を行うクオンのことだ。同社は、これまで企業がソーシャルメディアを用いて消費者と交流するオンライン・コミュニティを形成し、マーケティングに活用させてきた数多くの実績をもつ。導入企業はクレハファンケル(アテニア)をはじめ100社以上。

「企業と消費者の間には距離が生じがち。本当に消費者が求めているか分からない中でプロダクトをつくったり、広告を打ったりしてしまう。この距離を縮めることができれば、双方にとってメリットになると考えています。オンライン・コミュニティで共感を得たコメントをデータサイエンスで特定・解析し、そこからプロダクトや広告のヒントを見つける。この技術を使って、地域と市政をインタラクティブにつなげることが今回の試みの目的です」

こう語るのは、クオンの社長・武田隆(以下:武田)だ。同サイトでは、現在、東北の魅力を発見する場として、仙台の地にゆかりのある人たちが気軽にコミュニケーションをしているが、実はその裏側ではデータサイエンスが稼働している。サイト内のさまざまな声を市民が感じている地域課題や社会課題として見える化しているのだ。さらには抽出された課題を、社会起業家とマッチングして解決策を探ることも見据えている。

「フランクな会話のなかから見えてくる身近な課題から事業を立ち上げているケースも多いかと思います。一方で、潜在的な課題は声を出すことさえ選択肢がない場合があります。オンライン・コミュニティが醸成されれば、発言しやすくなり、その声が表にでてくることも期待できます。これまでは言語化されていなかったものが見えてくる。これこそが、次世代のコミュニティモデルではないでしょうか。ビッグデータからファクトとして見える市民の課題に起業家たちが触れたとき、どんな化学反応が起こるか楽しみです」


クオン社長・武田隆

クオンにとっても今回は新たな挑戦となる。これまで向き合っていた企業やその消費者ではなく、地域コミュニティの醸成が求められるからだ。ソーシャル・イノベーションのエコシステムを目指す同サイトにかける武田の思いは大きい。その思いの結実に、竹川も大いに手応えを感じているようだ。

「これまでは起業家同士が狭いコミュニティでつながっていましたが、『東北 ココロイキルヒト コミュニティ』だと、市民と起業家がインタラクティブにつながれます。支援している起業家が自由に発信できるし、いろいろな声を吸い上げることもできる。すでに効果も出始めています」

オンライン・コミュニティは、リアルでの交流が難しくなっている現在において重要な役割を担う。クオンの調査によると、同社が運営するすべてのファンコミュニティサイトにおいて、2020年1月1日から4月30日までのコミュニティ登録者の行動データを観察したところ、2019年の同期間と比較して、企業と消費者の双方向の交流が維持・継続されていることがわかったのだ(クオンHPのニュースリリースより)。

平常時には当たり前のものとして存在していたオフラインの「場」が崩壊する危機的状況においても、オンラインの「場」は変わらず維持・継続することができる。いつまた起こるかわからない「場の崩壊リスク」に対応する、新たなBCP(事業継続計画)が企業に早急に求められ始めている。自治体においても同じことが言えるだろう。非常時に自治体に求めるものが市民の中で明確になったいま、『東北 ココロイキルヒト コミュニティ』の果たす役割は大きいはずだ。

最後に郡が、仙台市の社会起業家支援の次なる一手としてスタートしたオンライン・コミュニティ『東北 ココロイキルヒト コミュニティ』への期待を総括しつつ、今後ますますプロジェクトは加速していくと締めくくった。

「東日本大震災以降、仙台市の支援プログラムを通じて数百名の起業家が誕生しています。その中でも特に、社会起業家アクセラレータープログラムを通じてこの3年間で誕生した36人の方々は強固なネットワークをもっています。これから先、彼らのネットワークをさらに広げるために、オンライン・コミュニティは非常に重要なものとなるでしょう。地域のさまざまな意見を聞きながら、それを事業に生かすことができるのですから。これまで気が付かなかった新たな視点が得られるなど、相乗効果が見込めるのではないでしょうか。行政としても市民の皆さんの多様な声が聞こえやすくなることで、より細やかな対応を考えられるメリットがあります。行政だけでは解決が難しい課題であっても、このコミュニティでつながる起業家の方々と力を合わせることで、解決していく流れが加速することを期待しています」

今後、『東北 ココロイキルヒト コミュニティ』によって、市民が抱えるさまざまな課題が浮き彫りになっていくだろう。従来のやり方では行政の目が届かなかった課題に、社会起業家たちがどのようなソリューションを提示するのか、そして仙台市がどのように社会起業家の裾野を広げていくのか、大いに注目したい。
今まさに、行政に頼るだけのスタイルではない、新たな街づくりのロールモデルが動き出している。



郡 和子(こおり・かずこ)◎1957年宮城県仙台市生まれ。東北学院大学卒業後、1979年に東北放送株式会社に入社、アナウンサー、解説員、報道制作局部長を務める。2005年9月、第44回衆議院議員総選挙で初当選(以後、4期連続当選)。内閣府大臣政務官兼復興大臣政務官などを歴任。2017年に第35代仙台市長(1期目)に就任。現在に至る。

竹川隆司(たけかわ・たかし)◎1977年神奈川県生まれ。2000年国際基督教大学卒業、野村證券入社。06年 ハーバード・ビジネス・スクールでMBA 取得、野村ロンドンに赴任。11年より米国ニューヨークにてAsahi Net International, Inc.を設立。14年より一般社団法人インパクト・ファウンデーション・ジャパンにて、東北での起業家育成・支援プロジェクト「INTILAQ」(インティラック)を主導、仙台市にイノベーションセンターを設立。現在、株式会社zero to one代表取締役CEO、仙台市総合計画審議会委員なども務める。

武田 隆(たけだ・たかし)◎1974年生まれ。日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕に師事。96年クオンの前身となるエイベック研究所を起業。その後、花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計100社のファンコミュニティを運営。企業運営型BtoCコミュニティサイト構築市場トップシェア(矢野経済研究所調べ)となる。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。


クオン株式会社
https://www.q-o-n.com/
東北 ココロイキルヒト コミュニティ
https://www.beach.jp/community/KOKOROIKIRUHITO


「QON ー ファンを育て、ファン化の理由を解き明かすコミュニティを共創する」

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