ただ、今は新型コロナウイルスが世界で猛威を振るっている非常時だ。日本政府関係者の1人は「コロナ問題の対応で重要な役割を担っているWHOを今、機能不全にすることが理にかなっていると言えるのかどうか」と語る。
日米関係筋によれば、米国から見た場合、WHOや中国を批判する米国の働きかけに対し、最も積極的な反応を示しているのが英国や豪州、次いでフランスといったところで、日本はやや中立的、そして韓国は慎重な姿勢を示しているという。同筋は「日本は、WHO改革の必要性について共感してくれているが、激しいWHO批判は避けている」と語る。
事実、16日のG7首脳テレビ会議についても、日本外務省は「新型コロナウイルス感染症への対応に、国際社会が一丸となった取組みが求められる中、今回の会議を通じ、G7としての一致した姿勢を示すことができました」と説明する一方、ホワイトハウスが発表した「WHO改革で一致」という内容には触れていない。
逆にテドロス氏は3月13日の記者会見で、日本がウイルス対策で新たに1億5500万ドル(約170億円)を拠出したと明らかにし、このときも安倍首相を称賛している。
日本はこれからどう対応していくのか。
米共和党議員団は16日、米国がWHOに任意拠出金を支払う条件としてテドロス氏の辞任を挙げるなど、米国のWHO叩きは過熱している。それでも日米関係筋は「2022年6月末で任期が切れるテドロス氏の次の事務局長が、特定の国の影響を受けないような仕組みを作っていくということだろう」と述べ、やみくもに混乱を拡大すべきではないとの考えを示した。
日本政府関係者の1人も「WHOがコロナ問題でどのような対応をしてきたのか検証し、情報公開を進めることは悪いことではない」と語る一方で、日本とWHOの良好な関係を壊すべきではないとの考えを示した。
そうは言っても、圧力をかけてきているのは米国だ。日本外務省の知人の1人は、巨大なパワーを持つ米国を、漫画ドラえもんに出てくるジャイアンに例える。知人に言わせれば、日本や韓国はのび太やスネ夫のような存在だという。日韓でケンカをしていても、米国が「うるさい」と言えば、たちまち黙ってしまう。米国の主張に道理がある場合はそれでも良いが、今回の米国のWHO叩きの背景には、大統領選で勝ちたいトランプ大統領の政治的な思惑がちらつく。
別の日米関係筋は「こういうときは使い分けが重要だ。うまく米国と調子を合わせた方が良いが、安易な妥協は避けるべきだ」と語った。「米国だって、大統領選で民主党のバイデン元副大統領が当選すれば、ころっと態度を変えるだろう」。バイデン氏は副大統領だった2013年12月、習近平中国国家主席との会談で「米中関係は21世紀における最も重要な2国間関係だ」と言及するなど、中国を重視した言動で知られるからだ。
新型コロナウイルスは世界の外交を大きく揺さぶっている。