好きなことよりも「得意なこと」を。ある音楽家がグラミー賞候補になるまで

音楽プロデューサー starRo(スターロー)


──ビジネスパーソンでも、本当は音楽がやりたいとか、絵を描きたいとか、本業とは別の好きなこと・得意なことを仕事にしたいと考えている人はたくさんいると思います。そういう人たちは、どういう志を持ちながら腐らずにやっていけばいいのでしょうか。

自分は音楽が一番得意だし、好きだし、天才だとずっと思っているんです。幸運なことに、好きなことと得意なことが同じだった。

だけど、それが同じじゃないこともありますよね。僕は、好きなことよりも得意なことが自分の本質じゃないかなって。まずは自分の才能を強烈に認識する必要があると思うんです。そのための体験が、僕にとってはサラリーマンだった。自分の得意とは逆のことをやるから気づく。僕はあえて逆のことをやることによって、自分の才能を再認識してきました。

アメリカで音楽をやることもそう。アジア人がアメリカで音楽やること自体もすごく大変なんです。アウェイな環境に飛び込んでいくうちに、自分がやりたいのはここじゃないって思うかもしれないし、意外といけるって気づきがあるかもしれない。それが重要ですね。

SNSを見ていると、右と左、保守とリベラルのように両極化しているじゃないですか。そういう社会の中だからこそ、自分と対極にあるものを理解しよう、体験してみようと思わないと、自分自身がどんどん偏っていくし、分断は広がる一方ですよね。



──常に両極を行き来しながら生きる。それはキャリア選択だけでなく、情報摂取の方法としても重要だと思います。フィルターバイアスによって分断が起きている状況だからこそ、意識しないと偏ってしまいます。

自分を貫きたいのであれば、左に寄っちゃったら右にもう1回寄って、そういうバランスを常にとって大きな目で見るとそれが一本の線になっているみたいなイメージ。

自分の好きじゃない人について理解を深めると、好きだと思う人の中にも違うところがあるってわかる。自分と他者が根本的に別の存在だと認識できると、そこで初めて自分にとっての「真ん中」がわかるんじゃないかな。みんな違うことと、根本的にみんな一緒だっていうことは、コインの裏表のようなもの。
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文=長嶋太陽 写真=小田駿一

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