好きなことよりも「得意なこと」を。ある音楽家がグラミー賞候補になるまで


──なかなか音楽にたどり着きませんね(笑)。

そうなんですよ(笑)。移住のために楽器はすべて売ってしまっていたので、最初の数年は音楽はできず、最低限の機材を持てるまでに3年ぐらいかかりました。2010年だったかな。ちょうどそのころ、コンテンツのデジタルシフトが起きたんです。書店が潰れ、CDが街から消え、代わりにNetflixなどのIT企業が台頭してきました。

わかりやすくデジタル革命が起きたとき、音楽プラットフォーム「SoundCloud」の存在を知った。そこに作った音楽をポストするようになったんです。そうしたら、全然知らないどこかの国の人が「dope!」とかコメントしてくれて、それがめちゃめちゃ嬉しくて、いまにつながるひとつのきっかけです。



僕は30歳を超えてからアメリカに行ったので、友達づくりも難しい。でも、SoundCloudを通して友達ができて、人と繋がって、どんどん輪が広がっていったんです。

自分の意識も徐々に音楽に近づいていたそのころ、昔から仲がよかったバンド「toe」の海外ツアーマネージャーをやることに。自分自身がアーティストとして本格的に活動し始める前にマネージャーを経験したことで、裏方の仕事やビジネスのいろはを学びました。

──そこで音楽とビジネスがつながっていくんですね。

当時、アメリカでUSBのアプリが流行していたんです。ライブの音源をすぐにDLできるような仕組みですね。スマッシング・パンプキンスなど有名なバンドも導入していたから、それをtoeでもやってみた。すると評判が良くて、自分で会社を立ち上げてそのシステムを日本に持ち込みました。それが初めての起業です。鎮座ドープネスさんやBoAさんなど、大手レコード会社や有名なアーティストの仕事をやることでメジャー領域のビジネスを覚えていきました。

それと同じ時期に、僕が繋がっていたコミュニティがSoundCloud内で大きな存在になってきて、「Soulection」というレーベルに見つけてもらい所属することになります。

SoundCloudも「Soulection」も徐々に大きくなっていき、僕にも大きなレーベルからリミックスや制作仕事が増えてきた。そのときに完成させたかなり難易度の高いリミックスの仕事があったのですが、半年後、僕が知らない間にグラミー賞に提出されていて、リミックス部門にノミネートされたんです。

──プラットフォームの隆盛とstarRoさんの活動がシンクロしていったことが、ひとつの要因にあると。

タイミングは大きかったですよね。でも、10年以上経っているから、僕のなかではかなり長かったです。デジタル技術の波が来たからこそ、チャンスが与えられた。
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文=長嶋太陽 写真=小田駿一

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