「BnAは、日本のローカルアーティストと、海外のトッププレイヤーが出会うグローバルコミュニティを目指しています。ローカルアーティストは、海外からインスピレーションを求めに来たクリエイターを通じて、活躍の場を得られる。ゲストはアーティストの強力なパトロンになる。実際、ゲストの海外クリエイターを通じて、高円寺のローカルアーティストがサンフランシスコやシドニーに呼ばれる事例も生まれました」
そのため、ホテルは最大限作品と触れることができ、地域のアーティストに開かれた場であるよう設計されている。
「一般的なホテルでは、ロビーにあるのはソファーくらい。しかしBnAでは、場所が許す限り作品を飾ることができるようにしています。しかも、完成したものを飾るのではなく、制作過程から展示として魅せる。宿泊客がアートに触れるだけでなく、アーティストとコミュニケーションが取ることができるようにするためです」
BnA HOTEL Koenjiのロビー(提供:BnA)
例えば、BnA HOTEL Koenjiのロビースペースで田澤氏の背景に写る壁画も、アーティストの作品。毎月異なるアーティストが発表の場として活用している。フロントデスクはバーとしての機能を盛り込み、ここがアーティストと宿泊客の接点になることもあるという。
また、現在準備中の日本橋のプロジェクトでは、地下と1階をつなぐ吹き抜けの壁を巨大な壁画スペースにするそうだ。アーティストが日々絵を描き、少しずつ作品が完成していく。地下には工房も設置。常にアーティストが出入りし、ゲストとの交流が生まれるような仕掛けも用意する。
再現性のある「アーティストと宿泊者の関係性」を
2016年にBnA HOTEL Koenjiを立ち上げてから、4年。場を作ることに注力して施設を4店舗まで拡大させる。次のステップに進むためには、BnAのコアにある宿泊者とアーティスト双方との関係構築を、より再現性を持って取り組む必要があると考える。
「2部屋程度で規模が小さい高円寺であれば、アーティストとゲストの接点を偶然に頼っても、コラボレーションが生まれていました。空間的に狭いと、場の濃度が上がり、たまたま同じ時間にバーにいたアーティストとクリエイターが意気投合するというようことが起こります。
しかし、30部屋を超える京都くらい大きくなると、偶然も起きづらくなる。今後は、そのマッチングの再現性をより高めることのできる仕組みが必要だと考えています。アートとゲストの接点も、アートとゲストのタッチポイントを洗い出し、エンゲージメントを高めていきたいと考えています」
同時に、アーティスト側への価値還元も引き続き担っていく、と田澤氏は言葉を続ける。
「アーティストへの投げ銭や、作品の購入、継続的な支援を可能にする仕組みもさらにアップデートできればと考えています。人の人生を変えるようなパワーをもつアートに、適切な評価や経済価値が生まれる仕組みを作りたい。それは、BnAをはじめた当初から変わっていません」
BnAで得られるアート体験は、バーニングマンのアート体験を室内に最適化したものともいえるだろう。バーニングマンでは禁止されている経済活動だが、宿泊業のBnAでは、事業としての継続性とアーティストへの適切な還元を可能にする。
今日より明日、明日より明後日。泊まった日を境に、新しい自分になれる。人生を変えるようなアート体験をより濃く、事業として持続する仕組みに変えることが、宿泊とアートの掛け算がもたらした大きな価値ではないだろうか。