BnA GALLERY Ikebukuro(提供:BnA)
そこで、田澤氏の民泊事業の一環で、アーティストと協業して作った空間作品に泊まれる物件を池袋にオープン。4カ月ほどかけほぼDIYでつくった部屋を貸し出すと、田澤氏の予想をはるかに超えた注目が集まった。
「世界中から、デザイナーやクリエイターが泊まりに来るようになったんです。Airbnbのグローバルキャンペーンに取り上げられたり、雑誌『ELLE DECO』の『東京で泊まるべきホテル』として、ザ・リッツ・カールトンやアマンといったラグジュアリーホテルと並んで紹介されたりしました。すると、とくに感度の高いクリエイティブ層が次々と集まってきたんです」
宿泊の時間軸が、アートをより多面的に伝える
なぜここまでの注目を集めたのか。その理由のひとつに、田澤氏はアートと空間との相性の良さをあげる。
「『アート』の形態で一番多いものは『絵画』です。それは、インテリアとして市場があること、制作コストも比較的安価、場所も取らないなどの特徴にも由来しています。一方で、空間作品はその性質上なかなか買い手がおらず市場形成がされにくい側面があると考えています」
美術館でも空間作品は体験できる。しかし、美術館では作品を独占するわけにはいかず、鑑賞時間は相対的に短くなるだろう。その点、宿泊はアートと触れる時間軸を大きく変化させ、新たな表現が生まれるきっかけとしても機能するかもしれない。また、立体作品をセミパーマネントに展示する機会も生み出せる。
「宿泊であれば部屋に入った瞬間から、数時間い続けたとき、酔っ払って帰ったとき、寝る直前、朝日が差し込む朝と、さまざまな状態でアートを体験できる。同じアートでも自分の状況が変われば見え方も変わりますし、新しい気づきもあります。作品から得られるインスピレーションもより多面的になるでしょう。
バーニングマンという特殊な環境によってアートが人を動かすように、BnAも長時間にわたりアートの中に居続けることで、泊まった人の人生になんらかの変化を提供できるのではないかと考えているんです」
BnA HOTEL Koenji
海外のクリエイターはコミュニティへの入り口を求めている
こうした宿泊ゆえの体験価値を広めるべく、田澤氏はBnAをホテルとして拡大を決意。
ただ、一店舗目のBnA HOTEL Koenjiを展開するにあたり、池袋の物件までとは異なるアプローチで部屋を作っていった。それが、クリエイティブコミュニティを巻き込むという方法だ。
「欧米では、良いアートがあるところには、良いクリエイティブコミュニティがあります。アートは、コミュニティ全体の雰囲気やカルチャーを伝える『表紙』のような役割をはたしているんです。
これは池袋の物件でわかったのですが、海外のクリエイターは、日本の感度の高いクリエイティブコミュニティとの出会いを求めて泊まりにきている。そこで、高円寺を立ち上げる時からは、ローカルに根付くクリエイティブシーンのキーマンを探し、彼らとホテルを作っていきました」
高円寺では、10年以上に渡りオルタナティブスペース主宰するコミュニティリーダーであり4人目の創業メンバーの大黒氏とともに運営。秋葉原では3組のアートコレクティブと、京都では8人のコミュニティーリーダーをキュレーターに据えて、多様なアーティストが参加し、ともにホテルを作り上げた。その土地に根付いた人物との協業が、そこにしかないアート体験を生み出す一助になっている。
このアートコミュニティと宿泊者の接続もBnAが担う重要な役割だ。