「命と金、どっちが大事か?」の限界 経済のために命を救え

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もうひとつの方法は「死なずに済んで生きられること」にどれだけのお金を人が払ってもいいと思っているか測ることだ。政府が国民を助けることでいくら徴収できるかを表すと考えてもいい。マニアのあいだでは「命の統計的価値」などと呼ばれる(*2)。

この方法で「170万の命を救うことで生涯で生み出せるお金」を測ってみる。すると、そのお金的価値は米国全体で8兆ドル(800〜900兆円)、1家庭あたり6万ドル(600〜650万円)を超えるという結果になった(*3)。これは米国のGDPの約40%だ。いいかえれば、2020年3月から9月の半年余りのあいだ経済を一部殺すことで、一年間のGDPの半分近くも得する計算になる。

この結果を信じるなら、たとえ金の面だけを見ても「都市封鎖でGDPの10%が溶けてなくなるくらいならしょうがない、がんがん睡眠薬を打って経済を眠らせておこう!」ということになりそうだ。

しつこいが、ここでは金だけを考えてこの結論にいたったことを忘れないでほしい。つまり、「国民の命そのものには何の価値もない。彼らが作り出す金がすべてだ」という拝金主義者の政府でも合意したくなるはずの計算だ。「国民の命には金には変えられない命そのものの価値がある」と考える良心的常識人の政府であればなおさらだ。

こう考えてみると、経済閉鎖は「命は金より尊い」という価値判断(だけ)から来ているわけではないことがわかる。金と命を天秤にかけて出るはずのない答えに悩む必要はない。金のために命を救うことが必要なのだ。

(脚注)
(*1) Ferguson, Neil M., et al. (March 16, 2020) "Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand."

(*2) Kyle Greenberg, Michael Greenstone, Stephen Ryan and Michael Yankovich (2017) "The Value of a Statistical Life: Evidence from Military Retention Incentives and Occupation-Specific Mortality Hazards"
 
(*3) Michael Greenstone and Vishan Nigam (March 31, 2020) "Does Social Distancing Matter?"

文=成田悠輔

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