経済・社会

2020.04.18 20:00

「命と金、どっちが大事か?」の限界 経済のために命を救え

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太平洋に突然ベルリンの壁がそびえたったかのようだ。

トランプ大統領は2016年の大統領選で「外人どもからアメリカを守るため国境に壁を敷く」と公約して世界を失笑させたが、その公約が完璧に有言実行されるとは誰も予想しなかっただろう。

4月13日、東京でこの文章を書いている。私はふだん日米半々くらいで生活していて、今回は2月末から日本で遊びと仕事、3月末にはアメリカのシリコンバレーの家に戻るはずだった。ところがどっこい、いまや日米は事実上の渡航禁止で飛行機はすべて欠便、アメリカはビザの発行まで停止した。「ベクシル2077日本鎖国」というSF映画があったが、鎖国がSF作家の設定より半世紀以上早く実現したことになる。

飲食や観光と同じくらい追い詰められているのは、人間の想像力である。

貧すれば鈍するとはいったもので、想像力をさらに鈍らせるのが経済の麻痺だ。世界の多くの都市では戒厳令で多くが自宅に籠りきりだ。それでは経済も壊れるはずで、株価はリーマンショックを超える大暴落、米国では過去数週間で全国民の15%ほどが新たに失業した。過去半世紀の不況がすべて誤差に見えるほどの価値と仕事の瞬間蒸発だ。

1人の命は地球よりも重い?


なぜこんな悪夢に陥ってしまったのか? いうまでもない、感染拡大を防いで人命を救うため、あえて経済を失神させたからだ。

「1人の命は地球よりも重い」(福田赳夫首相がダッカ日航機ハイジャック事件の際に述べた言葉)。しかし、すぐに疑問が立ち上がる。「人の命を救うためには経済を殺してもいいのか?」「 命と金、大事なのはどっちなのか?」という使い古された問いだ。

よくある答えは「どっちも」というものだ。「金も命も両方大事で天秤にはかけれない。命は金で買えないから。答えのない永遠の難問でバランスが大事」といった感じで、のらりくらり玉虫色の思考停止に陥りがちだ。
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文=成田悠輔

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