【最終回】道の歩き方がわかった|乳がんという「転機」#17

北風祐子さん(写真=小田駿一)


乳がん後の自分の方が好き


先日、2回目のLAVENDER CAFEを開催した。国立がん研究センターの先生や、社外の3社からもサバイバーの方々が参加してくださり、他社事例や、体験談を話してくださった。参加者同士のグループトークでは、がんになってから、職場の人や友達、家族がしてくれたうれしい手助けエピソードを紹介しあった。私は、このカフェを支援してくれる役員に言われてうれしかったことを紹介した。

営業の最前線でたくさんの部下を率いて戦い続け、女性初の役員に昇格した人物。社員食堂で偶然同席し、蕎麦を食べながら数分話したことがあるだけだったが、そのときの密度の濃い短い会話に強さと柔らかさの両方を感じ、雰囲気にひかれた。

あんな人が役員になったらいいのになあと思っていたら、なった。思わずお祝いのメールを送った。ちょうど術後半年だったので、手術をしたこと、これまで走り続けてきたが、人生観、仕事観が激変したこと、新しい人生を大切に生き抜こうと思っていること、そして、僭越ながら、重責だとは思うがぜひともこのままキラキラと走り続けていただきたいと書いた。

いただいた返信にはこう書かれていた。「そうでしたか。大変な経験をされたんですね。人生観が変わる、その経験が北風さんを何倍にも豊かにしていると思います」

私を「豊か」にしてくれるとは! なんてうれしいことを言ってくださるのだろう。豊かになった自覚はないし、がんになってよかったとまでは思わないが、たしかに私はがんになる前の自分より、なった後の自分のほうがよっぽど好きだ。うまくいかないこと、うまくいっていない人、自分とは違う考え方など、これまでだったらイライラのもとになっていたようなことに、しっかりと向き合えるようになった。生きていることを心底ありがたいと思えるようになった。

今夜も彼女は冒頭の挨拶だけでなく、最後の懇親会が終わるまでずっと会場にいて、一人ひとりと話し込んでいた。役員といえば、冒頭の挨拶だけで帰るのが定番なのに。ありがたい。見守ってくれている、という安心感がある。ご自身の力をわかっていて、惜しみなく注いでくれる。想像力があるから、人の痛みがよくわかる。高校生のころから、人は強くないと真に優しくはなれないと信じてきたが、強くて優しいこの人は実にかっこよくて、大好きだ。

術後2度目の人間ドックは、術後1度目のときほどではなかったが、またどこかに恐ろしい病気が見つかるのではと鬱々とした気持ちで臨んだ。

人間ドックの先生たちは、私が大病を経験した要精密チェック人間だからか、ものすごく優しい。胃カメラも、ポリープだらけなのに「慢性胃炎のかけらもないきれいな胃です。こんなきれいな胃にできるポリープは良性なので全く問題ありません」と強調してくれたり、OKだった項目も、丁寧に理由付きで「大丈夫です!」と安心させてくれる。
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文=北風祐子、写真=小田駿一、サムネイルデザイン=高田尚弥

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乳がんという「転機」

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