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2020.05.18 16:00

ロボットと人が協働する未来日本型の「おもてなし」ロボットが躍進する──見えている経営者と道を示す VC#4

(右より)中野浩也QBIT Robotics 代表取締役社長兼CEO、元木新モバイル・インターネットキャピタル マネージングディレクター、苗 春亭モバイル・インターネットキャピタル インベストメントマネージャー

ロボットと人が協働し社会に活気をもたらす未来が目前に迫っている。そのときのロボットは、人間にはできない煩雑な業務をひたすらこなすだけの無機質な機械ではない。ときには経営者や従業員の大きな助けとなり、ときにはユーザーを期待以上の体験へと導くだろう。今回、話を聞いたロボティクスサービスプロバイダー・QBIT Robotics代表取締役社長兼CEOの中野浩也はそのことを証明した、ロボット工学の第一人者である。



ユーザーのインサイトを探る画期的なロボット


2018年、HISグループが渋谷にオープンした、人とロボットが共に働く「変なカフェ」。ロボット店員、トムの活躍ぶりは日本だけではなく、世界のロボティクス市場に強烈なインパクトを与えた。

アーム型ロボットのトムは、熟練したバリスタのように、プロ仕様のエスプレッソマシンを正確に、機敏に操る。誤って注文を間違えることも、飲み物をこぼしてフロアを汚すこともない。それでいて、淡々と“機械的”にコーヒーを淹れるだけの存在でもない。一人ひとりの客の行動を観察し、インサイトを探り、さまざまな表情(モニター)で気の利いたトークを展開する。エンターテインメント精神も旺盛で家族連れが来ると、子どもを楽しませるためにダンスを踊ることもある。

このロボットが世界から注目されるのは、相応の理由がある。ロボット業界の定説では、相手の感情を慮り、人の行動に応じてコミュニケーションの仕方を変えていく、そんな接客業のニーズに応えるロボットが誕生するまでには、まだ相当の年月を要するだろうと思われていたからだ。それまでの常識を打ち破り、HISの主導のもと、新感覚のロボットを開発したスタートアップがロボティクスサービスプロバイダー、QBIT Roboticsだ。QBITはその後、わずか2年の間でさらに機能をアップグレードさせたロボットを次々と開発。いまやあらゆる業種のニーズに対応している。


中野 浩也|QBIT Robotics 代表取締役社長兼CEO
三菱重工業を経て、国内最大手のSIer勤務、ソフトウェア開発会社やクラウドサービス提供会社などを設立。その後、ハウステンボスの情報システム部門責任者として「変なホテル」「変なレストラン」の運営に携わる。18年、QBIT Robotics設立。現在に至る。

「私たちのロボットはモノをリアルに掴んだり、渡したりできることが最大の強みです」

こう語るのは、QBIT Robotics代表取締役社長兼CEOの中野浩也。実はロボット工学の第一人者として、HISのプランニングを具現化させたキーパーソンでもある。

「私は、ロボティクスの研究が盛んになった1990年代からこの分野に携わってきました。そこで気づいたのは日本では、工業用のロボットであれ、サービス用のロボットであれ、優れた人工知能を搭載したとしても、表情や言語をもたない物体は、一般の人の目にはただの機械にしか映らないということでした」

15年、ハウステンボスに誘われ、『変なホテル』『変なレストラン』のプロジェクトを指揮したとき、中野はそのことを実感したという。

「日本人が求めるロボット像は、やはり鉄腕アトムのように言葉や仕草でコミュニケーションが通じる物体です。当時のハウステンボスのロボットはその機能がまだ十分ではありませんでしたが、それでも大変な人気を博しました」



ベンチャーキャピタルの目線
──コミュニケーションロボットが果たすべき役割──

元木 新|モバイル・インターネットキャピタル マネージングディレクター

QBITさんのプロジェクトは、社会の課題を探り当て、新たな未来を切り拓く可能性に満ちあふれています。中野浩也CEOを筆頭に、経営陣の皆さんがロボティクスの分野でたいへんな知見を擁している。コーヒーロボットから出発し、医療、介護などさまざまな業種で応用できることもわかっています。実は世界と比較すると、日本ではサービスロボットの普及に関してはあまり進んでいないという感触をもっています。その一方でQBITさんのロボットのようなおもてなしを重視したコミュニケーションロボットは世界にありません。日本人の感性、発想は世界にも通用します。QBITさんは、世界のロボティクスを牽引する技術をすでにもち合わせていると思っています。


元木 新|モバイル・インターネットキャピタル マネージングディレクター
慶應義塾大学大学院理工学研究科 修士課程修了。最先端技術の動向、知財戦略の構想策定・実行支援に携わり、RPAやロボティクス関連にも注力。ジグザグのユニークな事業展開を資金繰りや事業をメンターとして支援。




人を楽しませる「おもてなしエンジン」


16年、そんな中野に転機が訪れる。HISグループがロボットシステムの開発を推進する目的で、hapi-robo st(ハピロボ)を設立。中野はロボティクスの知見を生かしたコンサルティング業務を担うことになる。

「あらゆる業種が自動化、省力化を迫られ、ロボットソリューションの必要性が声高に叫ばれ始めたのは、日本ではつい数年前のことです。このとき、さまざまな業界が抱える課題を知ったのですが、特に深刻だと感じたのは飲食業を中心としたサービス業の経営基盤の脆弱さでした」

人材不足で働き手はほしいが、人件費は極力抑えたい。でもお客様にはたくさん来てほしい。経営者の多くはそんな矛盾を抱えていたのだ。

「工業用のロボットは人間の関節と同じような機能をもち合わせています。モノを掴んだり、運んだりすることに限っていえば、人間の手にも劣りません。この工業用ロボットを、誰もが安全に利用できる規格に改良し、さらに言葉や仕草でコミュニケーションがとれる機能を加えれば、サービス業の抱えている収益構造の問題を改善できると確信しました。そのためには、さらなる研究、実証実験をリアル店舗で重ねていくしかない。その思いはHISにも伝わり創業を決意しました」

いまやQBITの代名詞となった、「おもてなしエンジン」はハピロボ時代にすでに生まれていた。会社を立ち上げると瞬く間に、小型化、軽量化した工業用ロボットに画像解析とAIを組み合わせた発話機能を搭載することに成功。アーム部分に取り付けられたカメラがまず、客の年齢、性別、表情を瞬時に認識する。そのデータをAIが分析し、最適な言葉で発話させる仕組みだ。ロボットの顔となるモニターの表情は至ってシンプルだが、不思議と親しみやすい。相手の心理状態によって嬉しそうにも悲しそうにも見える、考え抜かれたデザインだ。

生産性、効率性にエンタメ性を加えたことで、一般の人々が頭の中でイメージするようなロボット、前述した「変なカフェ」のトムのプロトタイプが完成した。

独立すると、QBITは「おもてなしエンジン」に、ロボットの接客が売り上げにどう影響するかを数値化する機能を搭載した。例えば、どのくらい顧客満足度を上げれば、リピーターになってくれるか、その接客スキルをロボット自身が学習するという仕組みだ。

目標は大幅なコストダウン


さらにQBITが力を入れたのは、ロボットフレンドリーな環境整備である。ロボットが最高のパフォーマンスを披露するには、多くの条件を満たさなければならない。そこでカフェマシンの設計、水道・電気設備、決済システムなどの必要機器がすべてセットアップされた状態で搬入できるパッケージ(「&robot system」)をラインナップに加えた。「&robot system」は、2坪ほどのスペースがあれば設営できるので、店舗内だけでなく、テーマパーク、ショッピングセンターなどの商業施設とも相性がいい。

「『&robot system』は日々、進化を遂げています。いまはコーヒーだけでなくビールを注ぐことも、簡単な調理をすることもできるようになりました。お客様からも非常に好評を頂いています」

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、飲食店を中心にサービス業は苦しい経営を強いられている。QBIT は、以前から「&robot system」の販売価格を極限まで下げるためのプロジェクトを始動させている。実装が始まれば、苦境を乗り越えるための強力なサポーターとなることだろう。この取り組みを全面支援し、解決案を提示したのがモバイル・インターネットキャピタルである。

「モバイル・インターネットキャピタルさんには資金面以外の部分でもたいへん助けられています。とくにロボティクスの技術で先行する中国のサプライチェーンを紹介いただいたのは非常に大きかった。優良な素材を手頃な価格で入手できるようになったことで、大幅なコストダウンにつなげる目処が立ったからです」

新型コロナウイルスの流行が収束、あるいは終息した後には多くの人が繁華街や地元で家族、友人たちと外食を楽しむ当たり前の日常が戻るはずだ。そして近い将来、ロボットが私たちを笑顔で出迎えてくれる日も当たり前の日常になるだろう。


ベンチャーキャピタルの目線
──ロボットと人の協働が社会を活性化させる──

苗 春亭|モバイル・インターネットキャピタル インベストメントマネージャー

ロボットと人との協働が不可欠な時代が必ず訪れます。そう遠い未来ではないでしょう。ベンチャーキャピタルの立場で考えなければいけないことは、QBITさんが抱えている課題に対して寄り添い、ともに適切な解決策を導きだすことだと思っています。資金繰りだけではなく、弊社のネットワークも活用してほしい。例えば、中国ではサプライチェーンが確立されているので、日本よりも手頃な価格で多くの素材を購入できるメリットがあります。弊社は中国のロボットメーカーとのネットワークがあるので、QBITさんにご紹介しました。ローコスト化が実現すれば、日本でもますますサービスロボットが普及していくはずです。QBITさんには、ロボットソリューションを幅広く展開していただきたいと考えています。それが、日本のテック系スタートアップによい刺激を与えるはず。すでにQBITさんはそのような存在だと思っています。


苗 春亭|モバイル・インターネットキャピタル インベストメントマネージャー
東京工業大学工学部卒業。野村総合研究所にて、金融機関向けの顧客管理システム等のシステム構築・保守に従事。要件定義、基本設計からコーディングまでのシステム開発及びプロジェクト管理業務を経験。現在に至る。




モバイル・インターネットキャピタル
https://www.mickk.com



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