AIの進化でどこまで映像の自動編集ができるようになったか #読む5G

「読む5G」サムネイルデザイン=高田尚弥


次に、広義のユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ(UGC)であるテキスト情報ではなく、狭義のUGCである映像コンテンツに目を向けてみよう。

小学生が将来就きたい職業人気ナンバー1に「YouTuber」が挙がっている。既成概念に束縛された大人は「そんな安定しない職業に憧れるなど馬鹿げている」と嘆くだろう。とはいえ昭和の時代も一番人気は「プロ野球選手」だった。実はYouTuberもプロ野球選手も、職業として考察すると何ら変わりはない。「夢の職業」に就ける者はほんの一握り、そしてその中で、実力と人気を携え、世間に名を知られるようになるのは、奇跡のような確率だ。なぜYouTuberだけが大人に眉をひそめられ、プロ野球選手は礼賛されるのか、どうも理解に苦しむ。

しかし、5Gの到来によりUGCは、旧メディアに革新を促すことが期待されている。

動画制作において、プロとアマの間を隔てている大きな壁の一つは「編集」技術ではないだろうか。視聴者にどの映像を届け、どれだけの尺を使い、どう構成するのか……これまで、こうした技術をYouTuber界で駆使できていたのはごく一部にすぎなかった。これがTikTokなどの登場により、フォーマット化された動画編集も市民権を得るようになってきた。

スポーツ中継の「見どころ」を抽出するAI技術


マスターズ・トーナメント
ゴルフのマスターズ・トーナメントは毎年4月に行われ、メジャーな大会だ(GettyImages)

さらにAIの活用が編集作業を容易にしている。

特にスポーツの分野において、エキサイティングなシーンを切り取るハイライト映像をAIが生成する技術は、日々進化している。

ハイライトはこれまで、熟練の編集者が、映像全編の中から「ここぞ」というシーンを選択。編集作業を施し、それがスポーツニュース番組などでオンエアされて来た。このような熟練した技術がAIに取って代わられる可能性がある。

ゴルフ界の球聖ボビー・ジョーンズが企画したことで知られる「マスターズ・トーナメント」は、毎年4月にジョージア州オーガスタで行われる、アメリカでもっとも格式高いメジャー大会であり、昨年はタイガー・ウッズが11年ぶりに優勝し話題となった。

今年は新型コロナウイルスの影響で残念ながら延期されたが、このメジャー大会のハイライト映像は、画像と音声をAIであるIBMのワトソンに「喰わせる」ことで、生成されている。

AIについてはまったく門外漢ゆえ、詳細については専門家に委ねるが、ここでAIがハイライト生成の指針としているのが、試合中継音声だ。

ドライバーを打つ前の静寂、会心のショット音、「ナイスショット」の音声、観衆の喝采。沈黙の中、放たれたパット、カップインの音と興奮した中継アナウンサーの声、爆発的な歓声…全中継映像の中から、そうした音声を拾い上げ、見どころだけを抽出することで、ハイライト映像を自動生成している。

バスケ好きなら、NBAのハイライトをTwitterやインスタグラムでチェックする方も多いだろう。実はNBAはこうしたSNS上の映像の生成をいちはやくAIに委ねている。ハイライト生成を担当しているのはイスラエルの「WSC sports」社。アメリカではこうしたAIを駆使した動画生成会社がいくつか存在する中、同社がフロントランナーとなっているようだ。国際団体のFIBAやアイスホッケーのNHLもWSCの導入に追従。日本でもJリーグがWSCを導入するという噂がある。
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文=松永裕司

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