「COVID-19のような呼吸器系の感染症は一般に、感染者が咳やくしゃみを通じて、ウイルスを含む飛沫を放出することから感染が広がっていきます」。チームを率いる米ノースウエスタン大学教授(材料科学)のジャシン・ファンが説明する。「新型コロナウイルスの感染拡大を一段と抑え込み、さらには阻止するためには、こうした放出されたばかりの飛沫に含まれるウイルスの数と活性を大幅に抑制する必要があります」
医師は通常、マスクや手袋といった個人用防護具(PPE)をきちんと装着することによって自分の身を守る。しかし、医療機関ではPPEが不足しており、また新型コロナウイルスは物体の表面に数日間残存することも分かっている。そのため、患者からのウイルスへの暴露を減らすことができれば、医療従事者の感染リスクをさらに低減できると考えられる。
ファンはこのプロジェクトについて「抗ウイルス作用を持つ分子が、患者が息を吐いたり咳をしたりする際に放出する飛沫の中に入り込み、ウイルスを不活化(死滅)させるようにしたいと考えています。実現できれば、患者からうつりにくくなり、感染拡大の源を断つことに役立つはずです」と力を込める。
新型コロナウイルスは石けんや家庭用の洗剤、アルコールといった日用品で簡単に殺すことができるが、それらの成分をマスクに取り入れるのはさすがに無理がある。グループリーダーを務める英マンチェスター大学の研究者、サミュエル・ジョーンズも言う通り、それらは「漏れやすかったり、マスクを着用している人に害を与えたりする」ことが容易に予想されるからだ。
チームはマスクそのものを再設計しようとしているわけではない。そうしたプロジェクトはもっと複雑で開発や承認に時間がかかるのは目に見えている。チームが開発しているのは、既製のマスクに巻きつけたり、貼ったりできる一種のテープだ。
「基本的なアイデアは、既製のマスクに取りつけて使える、酸や、銅などの金属イオンといった、よく知られている抗ウイルス性化学物質を含んだ付属品を作ろうというものです。コストをなるべく抑えられるように、(着脱式など元の製品に追加する)ドロップインのソリューションにしたいと考えています。そうすれば、既存の製造を混乱させずに済みます」(ファン)